おいしい時間 しあわせのカタチ
くつくつと煮えるビーフシチューからは絶えず濃厚で芳醇な香りが立ち上る。
名づけて佐希子のこだわり飯。その、数ある料理のうちのひとつだ。
今日のメインが牡蛎飯なのにそれ? と若干、板前たちのほうから苦情があったが、数日前から計画していたことで、延べ三日がかりで仕上げたのだ。文句は言わせない。
それに今日は図らずも、常連のスーパー小畑の社長から、地物の、なにやらプレミアムと冠したワインが届いた。
プレミアム、だ。これでシチューを肴に乾杯しなかったら嘘だろう。
佐希子は有無を言わせず特別メニューにビーフシチューの名を書き込んで、カウンターの後ろに飾った。
そしてその夜。
8時をすこし過ぎた頃、やけに体格のいい男の人がふたり――ひとりがやけに遠慮がちに、枡屋の暖簾をくぐった。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ――ああ、土井コーチ。寒い中よく来てくれました。佐希子さーん」
「はーい。コーチ、いつもありがとうございます。どうぞ」
佐希子はあたたまったおしぼりとコップを並べる。
そのときようやく、コーチの隣にいるのが常の顧問兼監督ではなくもっと若い――というかもろ学校のジャージー姿の学生だということに気づいた。
しかも、頭を見ればほぼほぼ丸刈りのそれ。
ということは?