おいしい時間 しあわせのカタチ
そのコーチが、生徒の誰かをうちに連れてきたのは今回がはじめてだ。
お店に連れてくるほどなら、早見くんは彼が目をかけている中でもとりわけ気に入っている生徒のひとりなのだろうか。
浅黒い肌に澄んだ白目が目を引く一方、見本のような富士額がよく似合う、なかなか凛々しい顔立ちだ。
「おまえ、なんにする?」
「なんでもいいんですか?」
「――個数による」
「そんないくつも頼みませんから。だったら俺、牡蛎飯とカキフライで。俺カキ好きなんですよね」
「はい。かしこまりました。コーチはなにになさいます?」
「俺は、今日は揚げ出しで」
「揚げ出しっと。少々お待ちください」
厨房へ向かいしな、意外にビーフシチューの売れ行きが悪いな、と思って、佐希子はちょっぴりへそを曲げる。
早く社長よ来ーい、とカキフライを載せる皿を準備しながら口の中で繰り返し唱えていると、あたかも願いが通じたかのようなタイミングで引き戸の開く音がした。
ジュウジュウ言うカキフライと牡蛎飯の膳を手に、待ってましたと言わんばかりの足取りでカウンターへと戻ったところで、
「こんばんは。来ちゃいました」
そこに見た光景に、佐希子は思わず棒立ちになった。