おいしい時間 しあわせのカタチ

 厨房からカウンターへと顔をのぞかせて、根岸くんはにっと白い歯を見せて笑った。

 あくまでおとなの対応を心がけている。


「おー! ちゃんと職人じゃんかおまえ。この前とは全然ちげぇ」

「おい。ばかにしてんのか」

「してねぇよ、感動してんの。ああそうだ、おまえの分もあるからな、ケーキ」

「マジ? さんきゅ」

「いーえ。――じゃあせっかくなんで、おまえのおすすめ料理にしようかな。おまえらなんか要望ある?」


 大上くんはおしぼりで手を拭きながら、同僚らしいふたりに問いかける。


「とりあえず牡蛎飯とビーフシチューをメインに、あとは適当に見繕って欲しい感じ」

「俺もそれで」

「あいよー。佐希子さん、これ、とりあえず冷蔵庫に入れておきますね」

「お願いします」


 ケーキの袋を手に、根岸くんは早足で厨房へと戻った。

 何かを察したらしいゴンさんがすばやく目配せをしてきたが、佐希子は曖昧に笑んで見せるに留めた。

 カウンターの中は外のお客が見渡せるのと同じだけ、カウンター席のお客からもふたりは丸見えなのだ。

 変な勘繰りや、それによって気分を害させるようなことはできない。

< 72 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop