おいしい時間 しあわせのカタチ

「大上、おまえ今年の意気込み聞いて来いよ。そんで一緒に写真も」


 聞いてない。

 大上さんだけはかろうじて澄んだ目をとどめているが、他二人はなかなかな酩酊ぶりだ。

 三人とも、料理に手をつけるや否やアクセルを踏み込んだから無理もない。

 よほどうちの料理が気に入ったのだろうと思えばありがたいことではあるけれど、時折こうして分別のなくなる者が現れるのがたまに瑕だ。

 仕切りがないと、いろいろ不都合が起こることも多いのに……。


「てか、あれって誰? 早見の兄ちゃん? 部活関係?」


 行儀悪く肘をつきながらちびちびとビールを飲んでいた連れのひとりが、頼りなげに人差し指をさしながら、誰にともなく訊ねる。

 その声がまた不要にでかい。


「さあ。でもコーチって聞こえたから、多分、練習見てくれてる外部のやつだろ」


 大上さんが答える。未来のヒーローに興味津々なのか、その視線はすこしも早見くんから離れようとしない。


「ふぅん。すげぇな、俺も公立校の野球部だったけど、コーチとかいなかったぞ」

「強いところは金回りも伝手も他とは規模がちげぇんだよ」

「だろうなー。でもさ、嶋工って実は今年の秋大に出てないよな。自主的な出場辞退って話じゃなかったか」 


 ああ、ああ、なんだか雲行きの悪い話になってきた。

 そうだそうだ、と思い出したようにもう一人も手を叩く。


「けどそれって結局なんだったんだ? 暴力? タバコ?」

「県の高野連からは部内暴力があったって報告だったけど、案外さらっと終わったよな。マスコミもそこまで騒ぎ立てなかったろ。ほら、ちょうどその頃国内外でいろいろでかいニュースが重なって、それどころじゃなかったっつーか。んでそのうち秋大もはじまってマスコミはそっちにかかりきりになったろ」

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