おいしい時間 しあわせのカタチ
「でもスポーツは別だろ。オタクの大上はそのへん詳しく知ってんの?」
「――噂では、あいつこそ事の発端って話だけどな」
ええ、マジ? と根岸くんを除く男たちは一斉に土井コーチと早見くんを凝視した。
それまでも薄々感づいてはいたかもしれないが、噂話なら慣れっこだからとばかりに素知らぬ振りを貫いていたふたりも、さすがに今度ばかりはよからぬ気配を察したらしい。
男たちも酔っているせいか、注ぐ視線から、思慮がすっかり欠落している。
少年とコーチは首をすくめ、居心地悪そうに顔を寄せた。
佐希子は内心で舌打ちをした。
(子供の前でそんな話しないでよね)
佐希子もそろそろ気が気でなくなり、どちらでもいいから早く腰を上げてくれないか、と布巾を揉み絞る。
「どっかの掲示板に出てた。あいつがはじめに先輩に殴りかかったせいで火がついて、二・三年の間で軽い抗争みたいになったとかなんとか」
「それってやっぱり準決勝のときのあれが原因か?」
「――おまえらいい加減に、痛ッ!!」
「うーさぶさぶ……」
「いらっしゃいませ。――社長!」
絶妙なタイミングで店の戸が引かれるや、佐希子はひときわ明るい声を張り上げた。
見慣れた顔ぶれを認めるとさらにまた一段声を高くして歓迎の意を示す。
そして見えないところでは、脱げたサンダルを足の感覚だけで器用に履きなおしながら、
「待ってましたわ。ささ、前にどうぞ。蒲谷さんも」