おいしい時間 しあわせのカタチ
「女の子かぁ、たまんねぇな」
「四度目でようやくならそうだろうな」
蒲谷さんの帰った後、あらためて腰を落ち着けた社長がしみじみとそう言ったのに、ゴンさんも深々と頷いた。
佐希子はそんな中年ふたりの会話を、どことなく切ない気持ちで聞いていた。
社長のところは奥さんと離婚して以来、娘さんとは未だに絶縁状態らしいし、ゴンさんのところはもとから子どもに恵まれず、もう四十年近く夫婦ふたりの生活が続いている。
先代が店を切り盛りしているときからの知り合いということで、夫婦ともども佐希子のことを娘のようにかわいがってくれていた。
……そういった事情を知りながら、自らも結婚適齢期でありながら出産はおろか、結婚さえ眼中にない自分はこの場ではいささか肩身が狭く、なかなか思うような相づちの打てない佐希子である。
「――あら、どうかしました?」
約束のワインを注いだグラスを所在なげに回していると、妙に熱っぽい視線を感じた。
早見くんだ。
「ああ、ごめんなさい、お茶ですね。気がつかなくて」
「え?」
早見くんが握っていた湯飲み茶碗の中身がすっかり空になっていた。
「いや、大丈夫です。これ以上は。ごちそうさまでした。美味しかったです」
「お粗末さまでした。もう十時過ぎだけど、電車とか大丈夫? それとも土井さんに送ってもらうのかしら」
「はい。でも俺、地元わりとすぐなんで。今朝はすこし雪が降ったから徒歩で登校しました」
「そう。それはいいわね」