おいしい時間 しあわせのカタチ
コーチはトイレか、あるいは電話か、席を外している。
そういえばコーチはわりといける口みたいなのに、今もってお酒を誘われたことがないかも。
などとがめついことを考えていると、またしても視線を感じ、佐希子は思わずワインをこぼしそうになった。
「――お酒、気になります?」
「ていうか、はじめて見る光景だから」
「店主がカウンターで酒を煽ってるって?」
わざとおどけたふうに首を傾げてみせれば、早見くんは目尻にしわを寄せて頷いた。
そんな、屈託のない表情をすればやはりまだまだ高校生だ、と思う。
それでもふとした瞬間にのぞかせる物憂げな眼差しは、若干17歳が見せるものとしてはあまりに隔たりがあり、そのちぐはぐさがすこし寂しい。
佐希子はなんとはなしに、先ほどの大上さんたちの話を思い出していた。
(暴力、ねぇ……)
とてもそんなふうには見えないけれど、名門校が出場を辞退する理由は限られるはずなら、まんざら誤報とも言いがたい……と思いながら会話をつづけていると、そのうちコーチが戻ってきた。
「そろそろ帰るぞ。すこし雪が降ってきた」
「はい」
「傘をお貸ししましょうか?」
「いえ、車ですから」