おいしい時間 しあわせのカタチ
レジへ移動すると、財布を取り出すコーチの後ろから、早見くんが、
「ごちそうさまです」
「飯代分、明日からも練習がんばれよ」
「はーい」
和やかなやり取りに佐希子も自然口元をほころばせていると、ふいに何かに気づいたように早見くんの視線が止まった。
――またあの三人。
「――やっぱ、ネットの威力ってすごいっすね」
「え?」
ぽつりとこぼした早見くんの声に、コーチの眼の色が変わる。
暖かい部屋でますます酒が回り、見境のなくなりかけてきた大上さんたちのひとりが、ついに携帯電話を取り出した。
あの構えは、と佐希子もさっと表情が強張る。
「早見、こっちだ」
とコーチが腕を引くのが早いか、カウンターの中でガシャン、と皿の割れる音が響いた。
不意に訪れる静寂と沈黙。
普段なら歓迎できないそれらも今の佐希子にはありがたかった。
佐希子はその隙に急いで釣り銭を用意すると、押しつけるようにしてコーチの手に握らせた。
目配せを送り、コーチに戸を開けるよう促す。早見くんの顔を隠すには、佐希子の身長ではあまりにお粗末だが、寄り添うようにして店の外に連れ出した。
コーチの言うとおり、外にはちらほらと心もとない雪が舞い、吐いた息がたちどころに凍りつく。