おいしい時間 しあわせのカタチ
「なんかすいません、俺のせいで……」
「早見それはちがう」
「そうよ、気にしないで。こちらこそうまくあの人たちの意識を逸らせなくてごめんなさい。いつもはあんなふうじゃないのよ。もっと心配りのできるお客さんしかいないんですけど、今日はたまたま、ね。コーチも、そうわかってたからうちの店を選んでくださったんでしょう?」
早見くんは強豪校のエースで、その道ではすでに有名人になりつつある存在らしい。
それに加えて今は少々厄介な問題を抱えている。
いつまたどこでああいったモラルのない言動で窮屈な思いをするかわからない。
ファミレスではそれこそ写真を撮ってくれと言っているようなものだし、他の料理屋でもお客の品格が定かでなく、野球ファンのおじさま連中に絡まれたらそれこそ目も当てられない。
それなら枡屋が適当だろうと判断してもらえたなら、これほどうれしいこともなかった。
それなのに期待に応えられなかった、と思うと佐希子は悔しくてならなかった。
「余計な気遣いをおかけして」
コーチも自らの読みの甘さを悔やんでいるように言う。
「わたしたちはなにも。またぜひいらしてください。今度はチームの方たちも一緒に。ね、コーチ」
「――はい」
道路を挟んで向かい側の駐車場に消えていく二人を見送って、佐希子も店に戻った。
はてさて、と首を左右交互に傾けながら、あの三人は今日はいつまで粘るんだろう、とやや億劫に感じると、またぞろ肩が重くなった気がした。