おいしい時間 しあわせのカタチ
「? 社長ってそういうの詳しいんですか?」
「息子が嶋工に通ってるって母親がスーパーにいるんだってよ。野球部じゃあないんだけどな、事が事だけに、噂は学校中に広まったらしい」
「じゃあ早見くんが先輩を殴ったって――」
ゴンさんは肩をすくめた。
やはりそうか。
「――まぁいろいろありますよね。でもそれでよく周りも彼を受け入れてくれてると思いません? 秋の大会に出ないと春の大会の出場資格はなくなるじゃないですか」
「そいつの人柄だろ。だからあいつは多少の陰口じゃあびくともしねぇさ」
それならいいが……佐希子は先ほど聞いてしまった。一之瀬、という名前を。
そして、見てしまった、彼らの深刻そうな顔を。
早見くんや土井コーチを悩ませる問題は思いのほか根が深そうだ。
(それに、悩みと言えば、根岸くんもねぇ)
先ほどはああ言っていたが、実際、どの程度受け入れられたものだろう。
彼は根が真面目なだけに、思い切ったことをしてしまいそうな危うい側面がある。
……衝突はしてもいいが、それがどうか生涯に及ぶほどの亀裂にだけはならなければいいと、佐希子は布巾を湯がく根岸くんの背中を見つめながらそう思った。