おいしい時間 しあわせのカタチ
「いい匂いだな。おまえが作ったのか?」
「佐希子さんに手伝ってもらいながらな。おまえからもらった沢庵だ。あいかわらず美味かった。でもちょっと漬けすぎだったな。すこし酸っぱかったし」
「ああマジか。どうしたんだろ。今年は雪が少ないとかは言ってたけど、そのへんの理由かな」
「まぁいいから食ってみろよ。すげぇうまいんだから」
「うん。ああ、いい匂い。懐かしいな。昔、母さんが作ってくれたやつに似てる。いただきます」
気を利かせて根岸くんが持参した箸で器用に大根と豚バラを一緒に掴み、口に運ぶ。
佐希子はそんなふたりのやり取りを微笑ましく見守りながらケーキに舌鼓を打っていたが、それも間もなく終わってしまい、手持ち無沙汰に根岸くんが食べるケーキを見つめていた。
「――贅沢煮、とか言うんだっけか、こういうのって」
妙にしんみりとした口調で大上さんは呟いた。
「ああ、そうだな。じゃなきゃ、ふるさと煮なんて呼ぶことが多いな」
そうか、と懐古の情を湛えた眼差しで、慈しむように大上さんは箸を動かす。
贅沢煮と言えば、古くなった漬物をおいしく味わうために考えられた先人の知恵レシピである。
名前の由来は、塩漬けにしたものを敢えて塩抜きしたところに、新たに味をつけるという手間から来ているとか。
本来はその煮直した沢庵漬けだけで味わうのだが、俺たちくらいが口にするには少々物足りないという根岸くんの意見から、大根と相性のいい豚肉を組み合わせてみたのだ。