おいしい時間 しあわせのカタチ
「不思議なもんだなぁ。肉が入ったからってだけが理由じゃないんだろうけど、昔よりすごく美味しく感じる。ガキの頃もこうして古くなった漬物を料理してたけど、母さんが作る贅沢煮は……不味くはないんだけど、どうも好きになれなくてさ」
「味覚が変わったんだろ」
「ああ、そうらしいな」
とそこへ、明らかに不釣合いなブラックコーヒーが運ばれてくると、なんとも言えないにおいが三人を取り囲んだ。
紅茶のお代わりをお願いすべく声をかけようとして、佐希子は、おにぎりの包装を外す大上さんの傍らに留まり、興味深げな眼差しをタッパーに注ぐウェイトレスさんに気づいた。
「なぁに、それ。いい匂いね」
「ああ美砂。うん、ちょっとな。同級生が持ってきてくれたんだ」
「へぇ。こんにちは」
根岸くんは軽く頭を下げてこれに答える。
「タツ――じゃない、大上さん、今ちょっといいかな」
美砂さんに請われて、大上さんは佐希子と根岸くんにそれぞれ目顔で訊ねるようにした。
「気にしないで」
「ああ、行ってこい」
「悪いな」
大上さんは中座を詫びると、ひと気のないほうへ歩いていった。
美砂さんが駄目なら、と佐希子は他に誰に紅茶を頼もうかと視線を彷徨わせる。