溺れるマーメード

簡単なランチを終わらせ
忍びこむように社長室へ足を入れて
そっと後ろ手で鍵をかけた。

カチャリとした金属音に彼がふと私を見つめる。

「絶対来ると思ってた」
自信満々な楽しそうな笑顔。

「時間がないの」
私は上着を脱いでブラウスのボタンをふたつ外した。

「一瞬の快楽ってヤツ?」

「主導権は私よ」

あぁ髪をまとめなければよかった
彼の身体と密着できない。

「落ち着けって。ホントに可愛いヤツだなお前は」

長身の彼の身体に自分の身体を重ねると
彼は私のスカートのファスナーに手をかける。

「ダメだって……」

「気持ちよくさせてやりたいだけ」

「でも……ダメ……」

彼の身体はしなやかで鍛えられていた。

どんなに意地悪を言われても
彼に抱かれると
身体が溶けてしまう。

張りのある肌。
しっとりと吸いつくような肌。

私を夢中にさせる。

「煙草の香りがする」
彼の肩に甘えてそう言うと
「嫌いか?」って言われたので首を横に振る。

彼の太く骨ばった腕に首を預け
唇を重ねる寸前

煙草の香りとは別物の

女性の香りがした。

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