夢が醒めなくて
「素敵なかたですね。恭匡さん。」
お父さんがお2人を京都駅まで送って行かれるのを玄関でお見送りしてから、ほうっとため息混じりにそう言った。
義人氏とお母さんが顔を見合わせて変な顔していた。
「……まあ、外面(そとづら)は完璧やわな。」
「そうね。由未の食事がお口に合ってらっしゃるのねえ。よかったわぁ。」
首を傾げてると、義人氏が説明してくれた。
恭匡さんは、かなり偏食で頑固なめんどくさいヒトらしい。
一時は栄養失調か拒食症かというほど痩せ細ったけれど、見かねた由未お姉さんが恭匡さんの口に合う手料理を毎日作り続けてるそうだ。
「じゃあ、由未お姉さんは、手料理で恭匡さんの胃袋を掴まはったんですか?」
そう聞くと、義人氏は憮然として否定した。
「いや。先に惚れてたんは恭匡さんのほう。由未は、ほだされたんやろ。」
「そうね~。恭匡さまは偏執狂っぽいから、掴まったのは由未のほうでしょうね~。まあ、結果オーライでしょ。お父さんがずっと願ってたご縁ですもの。めでたしめでたし。」
義人氏もお母さんも何とも皮肉っぽかった。
祝福してはることは間違いないんだけど……何だろう?
一筋縄ではいかない事情と感情があるのかな?
その後も、義人氏はアンニュイだったし、お母さんも心ここにあらず、と言った風情だった。
私はお庭の四阿(あずまや)で梅の香りを楽しみながら読書を始めた。
しばらくして、お母さんがお庭の奥のほうへ向かって歩いてらっしゃるのが見えた。
本を閉じて、お母さんの後を追いかける。
お母さんは、丘の向こうの川のそばにしゃがみ込んだ。
……何をしてらっしゃるんだろう。
「お母さん?」
そう声をかけると、お母さんは眩しそうに振り向いて、私を見上げた。
「希和ちゃん。……いらっしゃい。ここ。これ。」
そう手招きされて、私はお母さんのすぐ横にしゃがんだ。
土から小さな芽が出ていた。
「これは?」
そう尋ねると、お母さんは愛しそうに指でそっと触れた。
「すずらんよ。今年も無事に芽が出てくれた。……よかった。」
これが、すずらんなのか!
「すずらんって1年草だったんですか。」
「……そう見えるわね。地上に出た部分は全部枯れてしまうから。でも、これでも多年草なの。」
そう言ってから、お母さんはちょっと黙った。
「へえ。素敵。枯れて、なくなっても、生きてるんですね。」
「……うん。」
相づちを打って、そのままお母さんは頭をガックリたれ下げた。
由未お姉さんのこと、やっぱりイロイロ思うところがあるのかな。
黙ってじっとそばにいた。
お父さんがお2人を京都駅まで送って行かれるのを玄関でお見送りしてから、ほうっとため息混じりにそう言った。
義人氏とお母さんが顔を見合わせて変な顔していた。
「……まあ、外面(そとづら)は完璧やわな。」
「そうね。由未の食事がお口に合ってらっしゃるのねえ。よかったわぁ。」
首を傾げてると、義人氏が説明してくれた。
恭匡さんは、かなり偏食で頑固なめんどくさいヒトらしい。
一時は栄養失調か拒食症かというほど痩せ細ったけれど、見かねた由未お姉さんが恭匡さんの口に合う手料理を毎日作り続けてるそうだ。
「じゃあ、由未お姉さんは、手料理で恭匡さんの胃袋を掴まはったんですか?」
そう聞くと、義人氏は憮然として否定した。
「いや。先に惚れてたんは恭匡さんのほう。由未は、ほだされたんやろ。」
「そうね~。恭匡さまは偏執狂っぽいから、掴まったのは由未のほうでしょうね~。まあ、結果オーライでしょ。お父さんがずっと願ってたご縁ですもの。めでたしめでたし。」
義人氏もお母さんも何とも皮肉っぽかった。
祝福してはることは間違いないんだけど……何だろう?
一筋縄ではいかない事情と感情があるのかな?
その後も、義人氏はアンニュイだったし、お母さんも心ここにあらず、と言った風情だった。
私はお庭の四阿(あずまや)で梅の香りを楽しみながら読書を始めた。
しばらくして、お母さんがお庭の奥のほうへ向かって歩いてらっしゃるのが見えた。
本を閉じて、お母さんの後を追いかける。
お母さんは、丘の向こうの川のそばにしゃがみ込んだ。
……何をしてらっしゃるんだろう。
「お母さん?」
そう声をかけると、お母さんは眩しそうに振り向いて、私を見上げた。
「希和ちゃん。……いらっしゃい。ここ。これ。」
そう手招きされて、私はお母さんのすぐ横にしゃがんだ。
土から小さな芽が出ていた。
「これは?」
そう尋ねると、お母さんは愛しそうに指でそっと触れた。
「すずらんよ。今年も無事に芽が出てくれた。……よかった。」
これが、すずらんなのか!
「すずらんって1年草だったんですか。」
「……そう見えるわね。地上に出た部分は全部枯れてしまうから。でも、これでも多年草なの。」
そう言ってから、お母さんはちょっと黙った。
「へえ。素敵。枯れて、なくなっても、生きてるんですね。」
「……うん。」
相づちを打って、そのままお母さんは頭をガックリたれ下げた。
由未お姉さんのこと、やっぱりイロイロ思うところがあるのかな。
黙ってじっとそばにいた。