夢が醒めなくて
「……恭匡さまはイイ子よ。困ったかただけど、心から由未を大事にしてくださってるわ。お父さんの言いなりにはならない気概もあるし。」
しばらくして、お母さんがそう言い出した。

言いなり……ねえ。
どう返事すべきだろう。

「これで、成仏してくださるといいんだけど。」
お母さんは不思議なことを仰った。

成仏?
誰のことを言ってはるんだろう。
恭匡さん?
お父さん?

「……何か、遺恨があらはったんですか?」
恐る恐るそう聞いてみた。

お母さんは黙って、すずらんの芽に触れた。
聞かないほうがいいのかな?

「……すみません。」
出しゃばったかも、と私はそう謝った。

するとお母さんが慌ててお顔を上げた。
「あら。希和ちゃんが謝ることないの。ごめんね。たいしたことじゃないのよ。お父さんは天花寺家の書生みたいな立場だったから、喜びもひとしおなのよ。それだけ。」
どう見てもそれだけじゃない気がした。

でも、お母さんは笑顔を取り繕って、立ち上がった。
「さ。そろそろ冷えてきたわ。お部屋に戻りましょうか。今夜は希和ちゃんの卒業祝いよ。」
「え!またお祝いですか?」
ことあるごとに祝ってくださる気がする。

「だって卒業式よ?希和ちゃん、答辞まで読んだんですもの。ちゃーんとお祝いしなきゃ。」
……3週間後には、入学式のお祝いもしてくださるんだろうな。

苦笑してると、お母さんはポンと手を打った。
「由未の結納が終わったら、希和ちゃんの十三詣りね。楽しみだわ~。」
……甘かった。

お母さんのカレンダーは祝祭日だらけのようだ。



由未お姉さんの結納まで一週間を切った。
その日、義人氏は粟田口刑場跡に私を連れて行ってくれた。
「希和に言われてから調べたけど、『京都時代Map』にすら乗ってへんねんもん。忌み地やで。マジやばいで。大丈夫か?」

運転しながら何度もそう確認する義人さんに苦笑した。
「大丈夫でしょ?だって、京の七口の1つでしょ?粟田口には平安時代から明治維新まで処刑場があって1万5千人が処刑されたけど、その間ずーっと東海道を数え切れないヒトが往来してたんでしょ?」

「……明智光秀もさらされたらしいね。」
義人氏は本当に下調べしてくれたらしい。
「ココと、江戸時代には京都の西にも処刑場が作られたって。そっちもついでに行ってみるか?」
「え!?何か残ってるんですか!?」

驚いてそう尋ねるとお兄さんは、嫌そうに言った。
「何も。石碑も撤去されたそうや。刑場の南側に寺の墓地があって共同墓地の管理をしてはるけど。地図を見ながら、このへん、って辿るだけやな。」

「じゃあ、手を合わせるだけでも。」

義人氏は、うなずいて、ため息をついた。
< 128 / 343 >

この作品をシェア

pagetop