夢が醒めなくて
三条通りの蹴上の東側。
今まで何も考えずに何度も通っていた道だった。
知識として、刑場があったということは知っていた。
でもかつての大動脈・東海道の京都への入口という認識はあっても、刑場を意識して通ったことはなかった。

……このあたりは、琵琶湖疎水が通ったり、路面電車を走らせたり、地下鉄を掘ったり……かなり昔とは様相が変わっているはずだ。
刑場跡といっても、かつてを偲ぶものはない。
と、思っていたけれど、なるほどなあ。

確かに、整備された国道なのに、突然、法面(のりめん)が整備されてないところが現れた。
「ここ、ですね。」
うなずく義人氏の表情が硬い。

……背伸びすると、古い石碑が2つ見えた。
処刑されたヒトの供養碑ではない。

草に覆われた石段を上がった。
「刑場跡には、明治時代に解剖する施設が作られたって。この石碑は解剖されたかたの供養碑らしい。」
義人氏の言葉を聞きながら、手を合わせてお参りし、ぐるりと周辺を見渡した。

「いずれにしてもこの辺りなんですね。」
……何だろう、これ。
形容しがたい神妙さを感じる。

突然、不思議に感じた。
私は何を想って、こんなにもココに来たがったのだろう。
何かご縁があるのだろうか。

「もうちょっと東へ行くと、刑場で処刑されたかたの供養碑があるらしいわ。そっちも行くやろ?」
峠を越えて少し行くと、異様に大きな石碑と石像が建っていた。

「これでも、当時より小さいんやて。廃仏毀釈で壊されたって。」
私たちは車を降りて石碑を見上げた。

「千人処刑される度に1つ、慰霊碑を建てたって、これですか。合計15の慰霊碑があったって。こんなのが15本あるのを想像するだけで怖いですね。」
そう言ったら、本当に背筋がゾクッとした。

「なあ?大丈夫か?希和、夜、怖くならへんか?何か、心配になってきたわ。」

私は冗談のつもりで軽く返事した。
「怖くて夜、寝られへんくなったら、一緒に寝てください。美幸ちゃんみたいに。」

義人氏は、低く唸った。


西刑場は円町付近にあった。
ここもわりとよく通っていたので、地図を見るとすごく感慨深かった。

「この塀の向こうやな。入ってみるか?」
明らかにヒトを遮断する塀に、私は首を横に振った。

「お寺にご迷惑でしょうから、やめときます。」
そうして、静かに合掌した。
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