朱色の悪魔

男性は困ったように周囲を見回し、手を差し出してくる。

「うちに来るかい?ここは危ないだろ?」

顔を上げ、後ずさる。怖がっているように、警戒するように。

男性は怖がらせないような笑みを向けたまま手を差し出し続ける。

じっと男性を見つめ、恐る恐る差し出してくれた手を掴む。

「それじゃあ、行こうか」

言葉は優しい。物腰も。

でもさ、手の強さが痛いくらい。まるで、逃がさないとでも言われているみたい。

そんなことしなくても、ついていくから心配しなくていいのに。

というか、どっから見られてたんだろ。こうやってつれてかれてるってことはどっかで組長の目に留まったんだよね。

ずるずる連れていかれたのは人気のない路地。そこで不意に手を離され、気づいたときにはもう遅い。

薬品の臭いが鼻と言わず、口の中にも広がっていく。

すい、みんやく…かな?

遠くなっていく意識をギリギリまで繋ぎ止め、真っ暗な世界に落ちた。
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