奪うなら心を全部受け止めて
カラン…。
「佳織さん…佳織さ、ん?」
…居ない。帰ったのか。
灰皿の下にお札がある。
ふぅ…。正直、救われたと思った。
あの時とは違う。今日は、より複雑だ。冷めていて複雑だ。
今夜の佳織さんを俺は受け止められなかったかも知れない。
此処へ来た千景さんは、明確な理由があって現れた気がしたから。
佳織さんに、…佳織さんの身辺に何かあるんだ。しかも、悠長にしてはいられない何か。
千景さんの目がそう言っていた。
いつも冷静なくせに。…嘘つきですよ、千景さん。
あんな必死な目で…。
あんな目をして…好きじゃないなんて嘘だ。
昨日や今日芽生えた浅い好きじゃない。
深い愛情だ。護る。言った通り、勿論それもあるだろう。
護るにも色々あるけど、ボディーガード的なモノだけではない。それも含めてだけど、…丸ごとだ。何もかもだ。そうなんだろ、きっと。
…敵わない。
今の俺では千景さんの思いには到底敵わない。
好きだと言う思いの期間の長さか、もっと、何か、堪えて来たモノがありそうだ…。
俺だって、深く愛する自信はある。まだ出会いから短いだけだ。
何か、…確か、何か言ってたな…。もう終了だとか、佳織さんは大丈夫だからとか…。
どういう事だ。…やはり、過去の関係を知らない俺にはまったく解らない事。
俺には…打ち明けたりしないんだろうな、佳織さん。こっちから踏み込む事でもない、のか。…踏み込めない。それが俺と佳織さんの関係だよな…。そして、踏み込んでしまったら、俺達の関係は消える。