奪うなら心を全部受け止めて


「逃がさないよ?」

身体を起こし口づけられた。

「んん、あ、もう…、ご所望って訳じゃないけど…」

広い胸に手を触れた。

「けど?」

「優朔疲れてない?」

聞く事ではない。確認する事でもない。聞けば大丈夫って言うに決まってる。
それでも気遣わずにはいられない。

「温存してるって言ったけど?」

「あ、違う。そうじゃなくて…心というか、精神的な疲れはない?大丈夫?」

改めて聞きたくはない。二人でいるとき、こんな話ばかりになるのも…。

「ないよ。俺には佳織っていう万能薬が居る。
予防薬でもあるだろ?
佳織が居るから病んだりしない。佳織は俺の総てなんだから」

「優朔…。でも、無理しないでね?
仕事だって忙しいんだし、休息できる時はちゃんと休んでね?お願い、本当にお願い」

「それも含めて佳織に会ってるんだ。佳織に会わないと充電切れで持たない。解ってる?佳織。万能だと言ってるだろ?
休息の為に一人で過ごせなんて言われたら、俺、直ぐに壊れてしまうよ。…好きだよ、佳織。
って事で、シよう?」

「優朔、…無理。…ダメだって」

「…佳織は俺が疲れてもいいのか?」

…わざとシュンとしてる。

「もう…意味が解らない。だから、ダメだって…」

「解ってるだろ?」

抱き込まれてしまった。
見下ろされる瞳は、情熱的で甘くて、少し悪戯っぽくて…、幸せだと思った。
私でも少しは優朔を守っている事になっているのだろうか。優朔の立場を思えば、私は呑気過ぎるのかも知れない。
不安にさせないように振る舞ってくれる優朔の言葉や態度に、安らぎを貰っているのは私の方なのに。
一緒に居る時は優朔の事だけを考えたい。心を全部優朔で埋めてしまいたい。
ずっとこうして胸に抱かれていたい。
許される限り一緒にいたい。
欲張りは許されるのだろうか。
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