奪うなら心を全部受け止めて

・俺が、…埋めるから


・佳織32歳

ピンポン…。ピンポン…。ピンポン。

ん…、え、はい、はい、誰…。


あ、松下さんだ…。

「はい、ごめんなさい、お待たせして。どうぞ」



「失礼します。…お、お早うございます。良かった、まだいらしてくれて」

初めから俯き加減に挨拶をした。

「どうかされました?ご連絡なしでなんて、珍しい。私、今朝は、…中々起きられなくって、寝坊してしまって…。あ、恥ずかしい事言っちゃった。
今日が休みで良かったんだけど…。それに、少しお掃除とお買い物もしておきたかったから、まだ居るつもりだったんです」

「相変わらず…朝辛い程、んんっ。…仲がおよろしいのは結構な事です。
これ、一緒に食べよう?佳織ちゃん」

「あ、有難うございます。ロールケーキ…。嬉しいです。能さんはいつも優しいですね」

「そ、そう?訪問するのに、単なる手持ち無沙汰のごまかしだよ?
珈琲、入れて貰ってもいい?」

「はい。直ぐに!…えっと。
きゃっ、ごめんなさい、うっかりして。
…この格好では…着替えて来ますね。直ぐですから、待っててくださいね」

珈琲をセットすると、今更ながら腕を交差させてウォーキングクローゼットに慌てて駆けて行った。
可愛らしい事この上ない…。ネグリジェのままだったのに、忘れてるなんて。
まあ、不意に訪問したのだから仕方ないか。…その結果だからな。

相変わらず、無防備な事…。しっかりしているのに…妙に天然で。ふぅ…。参るよな…。こっちがキャーだ…。
何の罪の意識もなく、簡単に俺をドキドキさせてるっていうのに。俺が勝手にドキドキしてるんだけど。

最近は艶っぽさもプラスされて…。初めてあった頃と比べたら、随分、女性になった。
愛されているとは、こんなに女性を輝かせるものなんだな。ふっくらと柔らかそうな腕だった…。
…いかん。これから話す事を思えば、気持ちを落ち着かせねば…。

佳織ちゃんにとって、ショッキングな話かも知れないが、本質はショックな事にはならない。
冷静に理解して貰うだけの話だ。

よく解らないまま噂を聞かされるよりは、先にきちんと話して、理解して貰って置いた方がいい…。
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