奪うなら心を全部受け止めて
「…あのう、ごめんなさい、能さん。…ちょっとお願いが」
ばつが悪い顔をして近づいて来た佳織ちゃんは、俺の前でクルッと反転した。
ぉおっ…。…参った。
「ここには今これしかなくて、…慌てて着たら引っ掛かってしまったみたいで、ごめんなさい…恥ずかしいんですけど、…お願い出来ますか?」
ワンピースのファスナーが残り三分の一程の処で布をかんで止まっていた。
はぁ…。もう…、なんて事を俺に頼むんだか…。
「ああ、生地に…少し待ってください。破れるといけない、ゆっくり一度少し下げますよ?」
「はい…ごめんなさい、大丈夫です。こんな事頼んでごめんなさい」
珈琲の香りが漂ってきた。気が逸れた、お陰で冷静で居られそうだ。
「大丈夫ですよ。…随分、慌てられましたね。…はい、よし、OKです。生地も大丈夫です」
こんな時、敬語になるのは緊張している証拠だな…。…全く。
ポンッと両肩に手を置いた。
「はぁ、ごめんなさい、有難うございます。珈琲直ぐ入れて来ますね」
こっちが、はぁだ。一応これでも男盛りなんだけどな…。
優朔…俺は悪くないからな?これは不可抗力のようなものだ。
「佳織ちゃん、手伝うよ。お皿とフォークは俺が出すよ、勝手知ったる自分の部屋、だからね」
「はい、そうですね、有難うございます」
「時間は大丈夫かな?」
「はい。休みですし…私は単独行動ですから。
何時でないと駄目なんてないですから大丈夫」
「そっか。なんなら、買い物、一緒に行こうか?」
「え、いいんですか?あ、…でも」
「遠慮なら要らないよ?俺はいつも“単独"だから。
それとも、優朔の手前、気になるかな?…嫌かな?」
「…いいえ。能さんがいいのなら、お願いしたいです」
「了解。…その前に話しておきたい事がある。
冷静に聞いて欲しい事なんだ」
「は、い?…」