奪うなら心を全部受け止めて


「…食べながら聞く話ではない、という事ですよね」

「…取り敢えず、これは先に食べてしまおうか。珈琲も冷めちゃうし。残りは後でゆっくり食べよう、ね?」

「はい」


暫くの沈黙とカチャッと置かれるフォークの音。
珈琲を飲んだ。

「佳織ちゃん」

「…はい」

「奥様が妊娠されました」

「…え、……妊娠」

「待って。早まらないで。勘違いしないで。
優朔の…優朔の子供ではありません」

珈琲を一口飲んだ。

「え…でも、妊娠されたんですよね?」

「はい。でも優朔と奥様は関係を持っていません。これは事実です。嘘偽りなく。間違いなく今まで一度もありません」

「そんな…。では、どうして…妊娠?え…そんな、どうして…でも…夫婦なのに、…え、でも、妊娠したって」

「佳織ちゃん一人だけだよ…優朔が愛する相手は」

「あ…ぁ…優朔…でも何故…。解らない、本当は優朔の子供なんじゃ…」

「違います。優朔にとって大事な人、愛しい人は佳織ちゃんだけです。
夫婦間で関係を持たないのは、初めから決めてある事です。
よく覚えておいてください。貴女だけなんですよ、優朔が愛する人は。
これから奥様の話をします。
いいですか?落ち着いて、聞いてください」

「…はい。…あの、奥様は…優朔としない事…納得されて受け入れていたのでしょうか」

「…それは条件ですから。
初めから、これも受け入れての結婚でした」

「…」

知らなかった…そんなことまで決めてあったなんて。結婚したら夫婦だから……夫婦の営みだから…どんな形の夫婦であれ、優朔も奥様と…義務として、しているものだと思っていた。
嫌だけど、考えたくない。その事は考えたくなかったから…、敢えて確認するのも…聞くことじゃないし聞きたくなかったし。
夫婦でしてるなんて事を確定するのも嫌だった。
だけど、それが…してないなんて、むしろその方が…頭になかった…。

「…奥様には、沢山、愛人が居ると、以前話した事がありましたよね?」

「はい」

「つまりは…その中の誰かが父親だという事になります。奥様はいつもピルを服用されていました。…そう伺っていました。なのにです」

「…飲まれていなかったのですか?
妊娠って…そういう事になりますよね」

「うん。初めから飲んでいると言って飲んでいなかったのか…或いは、ある期間だけ飲まなかったのか、解らないんだ。飲んだと言って、ずっと処分されていたら解らない。
実際確かめる事もしないし。
病院からはいつもきちんと貰っているからね」
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