奪うなら心を全部受け止めて
俺に何が出来るだろう。
おもちゃが欲しくて泣いている子供に、お菓子を渡しても、最初は食べる事に気を取られておもちゃの事、忘れるかも知れない。
だけど結局食べ終わってしまったら、これじゃないって思い出す。
自分の欲しかったモノはこれじゃない。おもちゃなんだって。
そして、もっと激しく泣くだろう。
欲しいモノを貰えず、違うモノで機嫌を取っても、少しの間は紛らわせるかも知れない。
…でも解決にはならない。本当に欲しいモノじゃないから。
どうする、俺。
紛らわせても無駄だ。…子供じゃない。
「能さん…私ね、初めて優朔の部屋に行った時、何だか優朔を困惑させちゃった事があったの。
熱いから気をつけてって言われてたのに、ボーッとして、その珈琲にうっかり口を付けちゃって。火傷しかけて、…優朔に凄く叱られたんです。…心配させて。慌てて水とか、濡らしたガーゼで手当してくれて。
優朔、凄く心配してくれて…。
それなのに、私、言っちゃったんです。心配してる優朔をよそ目に。食べたいって。自分は大丈夫って解ってるから。
帰りに私の好きなチーズケーキを買ってくれて、内緒でおまけのタルトも買ってくれてて。それが目の前にあって。何だかよく解らないいんですけど。恥ずかしいとか、緊張とか、色んなものがあったんだと思います。だから、唇の痛みより、好きなモノが勝ったみたいに言ってしまって。
きっと呆れておかしい言動だったと思います。実際優朔は私が子供過ぎて笑ってたと思います。
好きなモノは好き。だからどうしても食べたかった、…欲しかった。唇が痛くてもか、って。
おかしいでしょ?そんな、子供過ぎて。大人から見たらやってること見透かされてるようなこと。
何をしてたんだか…子供だから、好きに真っすぐだったんですよね。…今も変わらず子供ですけど。子供の時に大人だったらって、よく解らない考え方を、今、凄く思います。
自由にできてる時にもっと、自分を出して、なんていうか、もっと時間を大切にしてたら良かった。
大丈夫です。私はただ信じて待つだけです。難しい事じゃない」
「そうだね。好きなんだから。会った時に優朔に言ってやるといい。好きで…欲しくて堪らなかったって」
「はい。待ちます」
「うん。ところでさぁ、ご飯は何がいい?」
「好きなものがいいです」
「ん?」
「能さんの好きなモノ、食べましょう?私の料理で良かったら作りますけど」
「俺の好きなモノか…。なら、佳織ちゃんだ」
「ええ?…」
「ハハ。佳織ちゃん…の作ったモノが好きだな。何作ってくれる?」
「…リクエストは?」
佳織ちゃんなんだけどな…。
「え…あ、何でも。やっぱり和食がいいかな」
「はい。承りました。今日は有難うございました。…私、いつも甘えさせて貰ってますね」
俺は本当は優しいお兄ちゃんなんかじゃないんだよ…。
「なんのなんの。…旨いの頼むね?これ、お礼?」
俺は佳織ちゃんを抱きしめた。
…きっとこんな事しても誤解はされない。
これはお兄ちゃんだから抱きしめたんだと。そう思われるだけだ。
「ハハハ」