奪うなら心を全部受け止めて


「よう、啓司」

「あ、いらっしゃい」

ほんの数秒の事だろう。
帰るお客様の背中、見送り振り返ったら千景さんの姿があった。

「珍しいな、店先まで見送るなんて。いつ振りだ?
しかも、男だったよな?太客か?」

「あ、いえ、今夜が初めてのお客さんで...久々に惚れました。いい男でした。何度溜め息をついた事か...」

「へぇ。まだいいか?」

「勿論。入ってください」



バーボンか...。
今帰ったという人のグラスか。

「あ、すみません。すぐ下げます」

「いや、慌てなくていいぞ?俺もバーボン、ロックで」

「畏まりました」


「どうぞ」

「サンキュ。ところで、どんないい男だったんだ?」

なんだかよく解らないが、どこか引っ掛かるモノがあって聞いていた。

「え?ああ。そうですね。最強です。って、何も知らないんですけど。よく言うイケメンなんていう言い方とは表現を区別したい、そんな感じの人です」

「解るような、解らないような」

ただの優男じゃないって事か。

「そうですね...、綺麗な顔でした。女性が好む整った顔です。でも緩いんじゃなく、責任感のある強さを感じる顔つきでした。
あー、俺、アホなんで、表現が下手くそで上手く伝えられないです。
体も無駄なく鍛えられているように見えました。ごっついのではなくスーツが似合ういい感じの体型です。
身長も高くて、所作がスマートで色気があって、...全てに完璧で見惚れました」

「ぞっこんだなぁ。言ってる事、女子じゃないか...まるで恋した女子みたいだな」

「...確かに、否定出来ないかも。俺が女なら守られたいです。身を委ねてしまいたい。
そんな安心感がありました。強さは優しさの現れのようで、懐の深さとか包容力とか...感じました。
こんな感じは千景さん以来です。そう思って、対応してました」

「...おい。...まぁ、いい...」

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