奪うなら心を全部受け止めて


「失礼ついでというのもどうかしているのですが、待ち人というのは女性ですか?男性ですか?」

「...」

「あ、すみません。初めての方に...立ち入り過ぎました」

いけない。醸し出す雰囲気が似ているようで、思い込みでつい深入りしてしまった。

「...女性、と言いたいところだが男性だ。...残念ながら色恋ではない。だが、残念ながらには値しない、多分会っておくべきいい男だと思う」

話の間の取り方。細身のダークスーツを着こなし、綺麗な顔でありながら、強さも色気もある人。ロンググラスを手にする仕草も無駄なくスマートだ。トニックを一口一口と飲む度、上下する喉仏も色っぽい。
夜の顔なのか。精悍さは昼のものだろう。

世の中、居るもんだな。男も惚れるいい男って。
千景さん以来だな。どうしても見惚れてしまう。

「だからと言って男が好きって事じゃない。
...追い掛けるなら、女性がいいよな」

「はぁ...。追い掛けるなら女性がいいって...言ってみたいものです」

「ん?言うのは自由だよ?ただ、言う機会は中々ないけどね。...こんな時くらいだよ」

「はあ。でも、誰もが言ってハマルかっていうと難しいです。お前が言うか、みたいになり兼ねないですから」

「気にし過ぎだよ。言いたい事は言った方がいい。そこは自由でいいはずだ。
...言って許される年齢、内容ならね。自分を出さずに後悔するのは、案外、後でしんどいもんだよ。思った以上に長く尾を引く」

「はぁ...。なんだか憑き物が落ちた感じです。スッとした気持ちになりました」

「そう?なにかあるのかな?君にも」

「はい。あ、いえ。あ、新しい物、何かお作りしましょうか?」

「そうだな...ではバーボン、ロックで。
今夜は長く居るつもりじゃなかったんだけどな。様子見のつもりで寄ったんだけど。
好んで通っている店の感じって、どんなだろうってね。
いい店だね。俺としても、もっと早くから知っておきたかったくらいだ」

「有難うございます。これを期に今後、是非お立ち寄りください」

「それはまだ解らないな」

「え?」

「俺の会いたい人と何か起きてしまえば、俺は来られない。ここはその男性の通う大事な店だからな」

はあ...。潔い言葉だな。決断が早い。職業柄かな。


「ご馳走様。また来るよ。...まだ来れる機会を貰った。今夜、会えなかったからね」

「はい。お待ちしてます」

「有難う、おやすみ」

「有難うございました。おやすみなさい」

カラン...。
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