奪うなら心を全部受け止めて
「どうしたんだ?…大丈夫か?具合でも悪いのか?」
それは突然の偶然だった。
放課後、先に出たショウを追って、愛すべきプレハブ校舎から旧校舎を通り過ぎようとしたところだった、階段に座るあの子が居た。谷口佳織?
膝を抱えるようにして顔を伏せていた。
俺の声に反応して顔を上げた。
あっ…。びっくりさせたらしい。というより、違う反応かもしれない。
「大丈夫です。有難うございます。何でもありません。大丈夫です」
立て続けに出てくる大丈夫だという言葉に、何でもないんじゃないかと思ってしまった。
「ごめん。谷口さんて言うんだよね?」
「え、は、い…」
なんで名前を知ってるって顔だな。
「余計な詮索かも知れないけど、本当は大丈夫じゃないんじゃない?かな、と思って」
「あの、えっと…」
「俺は、なかじょう、なかじょうちかげ」
「…あ、…ちか、げ?」
「ああ、千景だ。一応、二年な」
「あ、すいません、…名前、呼び捨てて…」
「違う違う。こっちは二年って、自己紹介しただけだよ。先輩面した訳じゃないから」
「あ、はい、でも…私」
「復唱して呟いただけだろ?あのさぁいきなりだけど…なんか悩んでんじゃないの?」
「あ……はい」
「どんな?悩みは誰かに話すだけでも楽になるよ?答えは自分で決めないといけないけどね。
話してみる?あ、いきなりでごめん」
「あ、はい。あ、でも…どうしよう」
「無理にとは言わないけど」
「いえ、…あの、私、困ってて、突然…」
「あー、待って、話の途中でごめん。もひとつ上の階段に移動しよう?その方が人目につかない。
あ、ごめん、嫌かな?というか、怖いよね?
さっき声掛けたやつといきなり二人なんて。
しかも人気のいとこ連れて行こうとしてるし。止めとく?」
「いいえ、…出来れば…聞いて欲しいです」
「解った。大丈夫だったら上がろうか」
自然と手を引いた。
「あっ…。は、い…」
屋上には出られないようになっているから、ここに来るやつは居なくなった。
「ここに座るか」
「はい…」
屋上の出口手前の三段ある階段。
少し距離を空け、並んで座った。