奪うなら心を全部受け止めて

・垣間見ることもある


・優朔と識子、そして子供

見るつもりも当然なかったし、まさか、見掛けるなんて、思いもしなかった。
注意はしておくべきだった。
いつか、偶然出くわす、見掛ける事もあると、想定しておけば良かった。

そうしたら、衝撃も小さく済んでいただろう。
あって当然の光景。
私はまだ自分の中にそれを作り上げていなかった。無防備な心で見てしまった。

関係ない…。想像も何も…、考えたくない事。
夫婦の事、家庭の事、端から頭に浮かべないようにしていた事だから。

手を繋いでいる。両隣に優朔、奥様。真ん中に居る男の子が…二人の子供。
嬉しそうにたどたどしいスキップをしている。キャッキャッと笑い声が聞こえる。
画像が歪む、遠くなる…。

これが現実。内面は誰にも解らない、でも仲の良い親子関係。
きっと何か行事があった日なのね。こうして保護者が一緒ということは。
子供が居ない私には、詳しくも解らない、幼稚園の年中行事の一つだろうか。

手を繋いで車まで歩いている。
車…優朔の個人の車…よね。松下さんの姿、見えてないし。社用車ではなさそう。
何故、脚を止めてしまったのだろう。ずっと目が離せなくなるのは解っていたのに。
通り過ぎれば良かったのに。
目に入った瞬間、脚が動かなくなった。
陰に隠れるように見てる自分は…なんだろう。

後ろのドア、優朔が開けて男の子を乗せている。軽々と脇を持ち上げられている男の子は嬉しそうに笑っている。
お父さんの事、大好きなのね…。…普通よ。これが当たり前の普通の親子の姿。
…奥様も一緒に後ろに乗り込んだ。…。助手席には乗らなかった。…。

ここの幼稚園に通っていたんだ。
私…知らない間に生活空間で仕事していたんだ。
知らなければ良かった。

次に…近くに来た時、例えば前を通っただけでも、ここに優朔の子供が居るんだと、思ってしまう。
知らなければ良かった…。

走っている。笑っている。
愛らしい顔。想像してしまう。

私、こそこそ調べて様子を見に来ているとか、…誤解されないだろうか。
偶然なのに。…そんな事してないのに。
わざわざ辛くなる光景を見に来る事はしないのに。

…あ…あぁ。…嫌。見なければ良かった。どうして、こんな…。見たくないのに、どうして…。こんな偶然。

この界隈の、どこに幼稚園が点在しているのか、場所を把握しておくべきだった。
そして近くは通らない。
そうしておけば良かったんだ。

優朔の周りで起こりうる全てのモノを、それから目を逸らさず想定しておけば良かった。

綺麗な男の子。奥様に似ているのかな…。それとも、お父さん似…。
顔ははっきり見なかったけど、きっと奥様は綺麗な人だろう。



トントン…。

えっ…。

肩を叩かれた。
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