奪うなら心を全部受け止めて


過ちだなんて...。そんな風には言って欲しくない。

「過ちと言われるなら過ちです。ですが、私は過ちだとは思いません。...この子は過ちで出来た子ではありません。私には私の意思がありましたから。
愛人の子供は欲しくありません。愛した人との子供は望めません。
でも、ただ一夜限りとは言え...惹かれた人との子です。この子は私の大事な子です。
産ませてください。...堕胎するなんて出来ません。私一人になっても育てます。離縁されても構いません」

別れられるなら、その方がいい。
私はこの子が居れば生きて行ける。そう思える。
あの人の無償の愛情は、彼自身が可哀相だもの。
冷たくしてくれた方が割り切れるのに。
心はくれない人に、ほだされて行くのは辛い。
優しくしないで欲しいくらい。でも、それが出来ない人。冷たい人間に冷たくできないなんて可哀相な人。

「二人の子だと言っただろ?このまま、大事に育てて欲しい。
優朔も何も言わないはずだ。自分の子として親になっていけるだろう。
優朔と二人で大事に育てるんだよ?
生むと決心した以上、何があっても決して生まれて来る子に辛くあたる事のないように。いいね?絶対に忘れないで欲しい。
君は産むと決めたんだからね。いいね。二人の子だ」

何もかも飲み込むんだ…。
全て解っているから。

「はい」

強く意志を持って返事を返した。

「私ももう帰るが、流石に一緒に帰る訳にはいかないな。...偶然会うはずのない二人、が、約束もなく一緒は有り得ないからね」

「...はい。そうです」

「車を呼ぼう。気をつけて帰りなさい」

「いいえ、大丈夫です。まだ電車もありますから。電車で帰ります」

「少しは...今できる親らしい事もさせてくれ。
人混みの中...何かあっては取り返しがつかない」

…あ。

「お義父様...。有難うございます」

この子は私の子。...一生誰にも知られてはいけない。それが一度きりの関係を持ってくれた意味。
忘れない。大事に育てます。

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