奪うなら心を全部受け止めて

秘密④

怖い。
納得しても、やっぱり怖い気がする。
優朔には何も言ってない。一人で勝手に決めた。
独身だから出来る。私は...既婚者ではない。

将来、私のどこか、心の支えになるかも知れないから。それだけ。

優朔との子供、許されるならいつか欲しい。
全く過ぎらない訳じゃない。ただ言葉にも態度にも出さないようにしているだけ。

優朔と居られるだけで充分幸せ。多くを望むと罰が当たりそうだ。そう思っている。

...10個。
ホルモンバランスがおかしくなった。吐き気にも見舞われた。
体の不調に気付かれたくなかった。
毎日会っていたら、体調不良に気付かれていたかも知れないが、そこは幸か不幸か、会えない事で気付かれずに済んだ...。

初期費用だけで80万…。決して安くはない。
年間保管費用...これから先14年を目安に約20万必要。
総額約100万。

私の卵子。凍結保存した。
あるか無いか解らない妊娠を夢見て。
この事実は知られないようにしなければいけない。そして優朔の負担にならないよう、私が望む子供については、気にしていない振りをしよう。...カムフラージュ。

採取にともなうリスクを考えたら、誰かに寄り掛かりたいくらい弱気になった。
情けないくらい怖かった。でも言えない。

千景にだって甘えちゃいけない。余計なモノを背負わせてしまうから、絶対言ってはダメだ。

卵巣が破裂するかもしれないとか、起こりうるリスクを知らされると、想像しただけで怖かった。
でも、環境が許された時、年齢的に何もかも間に合わなければ、更に虚しさや後悔は増すはずだ。

出産...年齢はあまり高くならない方がいい。リスクがあるから。
産める状況になった時、妊娠出来ないなんて...後悔先にたたず、そう思いたくない為に。

気持ちは迷わないが、決断する事が怖かった。

体外受精して母体に返したからといっても、成功する確率は低いらしい。
10パーセント...それが今の医療での私の卵子の受精して育つ確率。
それでも全部...受精する事にならないまま私の人生が終わる事になっても、私の分身、子供になる源が眠っている。
それだけでも希望が持てる気がした。

私が決めたボーダーラインは39歳まで...。
それまでに子供の話が出なければ、もう...妊娠はない話だ。
誰にも知られず私の分身は処分される。
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