奪うなら心を全部受け止めて

・千景、能、そして啓司


また来てくれたって事は、千景さんとはまずい事にならなかったって事だよな。話した内容も気になるけど...。

「松下さん、今日は待ち合わせですか?」

「ん、そうだ。アポのある、待ち合わせだな。...男だけど」

カラン...。

「よう、啓司」

「いらっしゃいませ」


「松下さん、待たせてしまいましたか?」

「いや、待ってない。こういう場所では待ってるという感覚はないな。...あまり待ち合わせもしないから」

「そうですよね。飲みに来たい時は大概一人ですよね。あ、啓司、バーボン、ロックで頼む」

「はい」

...この間から、二人並ばれると...こんな渋くて男前で色気もあって...。
宣伝費無しでお客さん呼んでもらってるようなもんだ。
目敏い女性客の中では既に噂になっている。
昔から千景さん一人の時もだったが『金曜の人』。金曜に来れば凄い男前に会えるって。
それが今は二人になったって。
週末のせいか、千景さん達のお陰か、金曜は、やたらと盛況になった。


「おかしな事になったな」

松下がチラッと啓司に目を向け話す。

「そう、ですね。俺に解除はしないって、御達しが来ました。そうじゃないと困るらしいです。...正直、もういいでしょって言いました。そしたら、佳織を護るのは千景の役目だろって」

「仕方ないさ」

松下は声を潜めた。

「……マスターとさ、佳織ちゃんを二人で会わせる訳にはいかないから、警戒だな。優朔にとっては厳戒体勢だな」

「知っちゃったんですよね。だから余計に...、もう大人だから、見てなくてもいいと思うんですけどね」

啓司の奴、よく無事でいられてるよな。
まあ、先輩が佳織の気持ちを察したら、...罪は軽いのか...。
しかし、ヤキモチどころのレベルじゃないだろ。俺なら来させない。佳織が望んで、例え同意の上だったとしても殴りたいくらいだ。
はぁ、これがまだまだ子供だって事か。所詮、根本は変わらない。
そんな事言ったら、単純に、俺は先輩だってボコボコにしたくなる。
はぁ、いつまでも妬いてるんじゃないってな...。

二人で啓司を見た。

「はぁ...、この人懐っこいワンコのせいか」

二人同時に発した。

「えー、なんです?二人して〜。息もなんだか合ってるし。俺、なんかしましたっけ?
はい、千景さん」

なんかしたんだよ、啓司。…お前は…知らぬが仏だ。
人畜無害のコイツが...関係を持ったと思うと。
今更だけど...。やっぱりなぁ...。解らないでもない、何も聞かず、受け入れてくれそうな奴だもんな、実際、コイツって。

「はぁ...」

「ちょっと、二人共〜また、なんですか?」
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