奪うなら心を全部受け止めて
外見からはそんな風には全然見えないのに、中身は気取りのない気さくな感じだな。
「……ごめんなさい、場にそぐわなくて」
「いいえ、そんなことは…」
決してない。実際、回りには聞こえない小さい声で喋ってるし。
「…私、自分で言うのもなんですが、ちょっと変わってるんです。静かなお店の雰囲気が台なしですよね。迷惑なお客さんにすぐなっちゃう。話の相手をしてもらうと、嬉しくて調子にのって終うから…、いくつになっても落ち着きがなくて。ごめんなさい」
更に少し声を潜めた。
「大丈夫ですよ?普通のトーンで。
うるさくもないし、台なしにもなりませんから。
お水もご用意しておきましょうね」
「あ、有難うございます」
「いえ、あまり、お強くないんですよね?」
「はい。その通りです。迷惑な客です。飲めもしないのに、来ちゃって」
「いいえ、人それぞれの召し上がり方がございますから。ご希望でしたら、ノンアルコールのカクテルだってありますし。強いふりして沢山飲んで頂いても見た目にはばれませんよ?
それぞれの思いで雰囲気を楽しんで頂ければ、それが一番です」
「ごめんなさい。有難う、気を遣って頂いて」
「はぁ、いいえ。…ダメですね、僕は」
「え?」
「お客様に気を遣わせてしまいました」
「え?そんなこと…、だったら、私がごめんなさいです。気を遣わせる言葉を返してしまったから」
「はぁ…。いや〜何とも…。負けた気がします。
もっと勉強致します」
ついつい、掛け合うような会話が楽しくて、接客というより、普通の会話を続けたくなった。
「そんな…。本当にごめんなさい」
「いいえ、もう…。止めましょうか、キリがなくなりそうですから。一旦ここで」
「え?本当、そうね」
カルーアミルクのグラスを見ている。何だか懐かしんでいるようにも見えた。
「少しお伺いしても?」
「はい?どうぞ?」
「初めて来て頂けたのはどなたかの紹介でしょうか?」
「いいえ。全くの偶然です」
「偶然?」
「何だか、不意に昔の事を思い出して、…ふと見たら、Crash loveという文字が目に入ったから…。
その言葉に、引き寄せられるようにドアを開けていました」