奪うなら心を全部受け止めて
BAR Crash love…にて
・佳織、初来店
・佳織37歳
「いらっしゃいませ」
「…こんばんは。初めて来たのですが、大丈夫ですか?」
「あ、え?あ、はい…、はい。うちは一見さんお断りとか基本ないので大丈夫です。ざっくばらんに、どうぞ、お好きな席へ」
「では…、一番奥、いいですか?」
「あぁ、あそこは…」
最近、千景さん忙しいみたいだし、…いいかな。来たら来たで、その時考えるか。
「あ、駄目な席?リザーブ?」
「あ、いいえ、大丈夫です。どうぞ」
「大丈夫?有難う」
「何になさいますか?」
「ごめんなさい。いい歳した女が、あまり詳しくなくて。あまり強くもなくて…飲みやすいモノ何かお願いできますか?
お洒落なカクテルも知らなくて。あ、そうだ。カルーアミルクって、今でもアリですか?」
「ええ、大丈夫です。アリですよ。ではそれに致しましょうか?」
「はい、お願いします」
「これどうぞ、サービスです」
「あ、嬉しい。どうして、こんな偶然…。私どっちも好きなんです」
丸いクラッカーとビターチョコ。
特にこのクラッカーは昔からずっと好きでよく食べてたなぁ。なんでかな…。最近、食べてない。…いつから食べなくなったんだろ?…。
「そうですか、喜んで頂けたのなら良かったです。口に出して反応してくれる方は貴重です。嬉しいです。ほとんどの方、何も言わず適当に召し上がるだけですから」
「お礼も言わないの?」
「はあ、まあ、ほぼ、そうですかね。お店のサービスっていうのはそんな扱いですかね」
「へえ、よく知らないことだけど、何だか素っ気なくて、ふ〜んだ、って感じね。
私は一般的にこういったお店も含め、対応の仕方とかに疎いけど、でも、頂いた物にはお礼言わなくちゃ。ね?あ、でも、一々反応せず、静かに過ごすものなのかな、そうですよね?
あ、ごめんなさい。こちらに来られてるお客様の事なのに、ごめんなさい」
「いいえ。では今度から何も言わず召し上がった方には言ってみましょう、ふ〜んだ、って」
「ぇええ!ホントに言っちゃうの?」
「クスクスッ。いいえ、実際、言えませんね」
「でしょ?びっくりしたぁ…。私が余計な事、煽ってしまったのかと」
「クスクスッ。失礼しました。…どうぞ、カルーアミルクです。
楽しい方ですね」