奪うなら心を全部受け止めて


「もしも〜し。起きてくださ〜い。……佳織さん。佳織さん。店、終いますから〜」

「あ、はい。はい、え?えっと……え?え?……誰?」

「えー…、誰って…。酷いなぁ…ショック」

眉間に皺を寄せ、顔を近付けてくる。視力悪いのかな。ぅおっ…ち、近い。流石に近すぎだろ。
女性なのに…男前な顔つきにドキッとする。中性的なんだよな、顔。…綺麗だ。

「あ、い…ったぁ、ごめんなさい。マスター。そう、そうだ、マスターです。私、眠ってしまったんですね。すいません。穴があったら入りたい…」

「アハハハッ。本当、貴女は楽しい人だ。
しっかりしてそうなのに…ギャップですかね。
この感じも魅力の一つですよね…」

「え?なに?」

「いえ、独り言です。それより、頭は覚醒して来たようですが、大丈夫ですか?帰れますか?」

「はい。大丈夫です。弱いけど酔ってないです」

「本当に大丈夫?言葉が堅いのが、妙なんですけど」

「頭が痛いから…。頭が痛いからです」

「いつも?」

「はい」

「なら体質ですよね?アルコールがダメな人の」

「良くご存知で」

「はい、俺は一応マスターなんで。今まで色んな人を見て来てますから。
え〜と、では、お住まいは遠いですか?歩ける距離ですか?」

「…解りません。ここがどこか解りません」

「ブッ。は?え?それ、本気で言ってます?」

「…はい。だって……フラフラ歩いてる時、見つけたお店だから……場所は解りません」

「はぁ…、本当に…なんて人だ。俺には可愛すぎて堪りませんよ」

「え?」

「何でもありません。独り言です」

「また?独り言、多いよ?」

「はい、甘い言葉が止まりません」

「え?」

「だから、独り言です。何でもありません。
ここはですね、○○区▲▲六丁目です。
自宅と近いですか?遠いですか?」

「ごめんなさい。住所は解るけど、距離感が解りません」

「まじですか?ブッ、アハハハッ。もう…、参りました。では歩ける距離か解らないという事ですが、俺に住所を教えていいなら言ってみてください。
あ、詳しくはいいですから」

「はい。え〜と○○区▲△二丁目…え?三丁目?
ううん、二丁目、二丁目…」

「あ、はい、ストップ。そこまで、ストップです。解りました、近いです。歩ける距離です」
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