奪うなら心を全部受け止めて


「本当?」

「本当です。良かったですね、帰れますよ?さあ」

「あの、…」

「はい」

「あの、…どっちに。お店を出たら…、私は…、どっちに?」

「……。はぁ、もう…、解りました。右に出てと言っても、その後が解らないですよね?」

ウンウン、ウンウンと激しく頷く。

「…じゃあ、行きましょう」

「え?」

「送ります。タクシーに乗せる距離じゃないし。さあ、帰りますよ」


店の明かりを落とし、手を引いてドアを出た。
鍵を掛けて改めて手を繋いだ。
天然だよな。これで天然じゃないっていうなら、手慣れてるな。

「ごめんなさい…こんな事になって…本当に…」

「穴があったら入りますか?」

「はい。埋もれて許されるなら入ります。…出て来ません」

「アハハハッ、はぁ、ぁ〜あ。気にしないでください。お陰で俺は凄く楽しいです。馬鹿にしてるんじゃないですよ?誤解しないでくださいね」

「…ごめんなさい」

「だから、謝らないでください。本当に楽しいんです。…こんなに長く一緒に居られるなんて…ラッキーです」

「あの、…私…」

「はい?」

「また、お店に来ても大丈夫?来てもいい?」

「何言ってるんですか?いいに決まってるじゃないですか」

そんな可愛いらしい事、…言わないでくれよな。

「本当?初めましての人に、こんなに迷惑掛けてるのに?面倒臭い女だって思ってるでしょ?」

「…。迷惑じゃないし、面倒臭い女だなんて全然思ってもないですよ。
いいって言ってるんだからいいんです。また絶対来てください。待ってますから。
…ボチボチ見覚えのある景色になって来たと思うのですが、どうです?」

「はぁ…、ごめんなさい、解りません…。…暗いから。…昼間と違う…明るかったら色具合とか。ね?そろそろ?近い?」

「もう…。クスクスッ。アハハハッ。ダメだ、堪えられない。
それ、真面目に言ってますよね?」

「…はい。…大真面目です」

「もうこうなったら仕方ないですよ?二丁目の後、教えてもらってもいいですか?」

「…はい。うろ覚えなので、ちょっと待ってください。……えっと…あ、二丁目○番○○号‥」

携帯を見ている。

「ストップ!部屋番号迄はいらない。迂闊過ぎます。携帯もなくさないようにしまって。間違いないですね?」

わざと携帯を強調してみせた。

「はい…。…あーっ!」

「…やっと気がつきましたか?」

「はい…。携帯見ながら帰れば帰れましたよね?多分……。もう…私ったら。本当にごめんなさい。はぁ。…穴に入る」

「ハハハ、残念ながら穴はないです」

はぁ。結果、俺が策士という事になってしまうのだろうか…。


「はい、着きましたね。間違いないですよね?建物確認してください?
くれぐれも階違いの部屋の鍵を開けて入ろうとしたりしないでくださいね?
時間帯も時間帯ですから…、ガチャガチャされる側の身になってくださいね?」

「…はい。落ち着いて、よく確認してからにします」

「少しご褒美をください」

「え?」


俺は繋いだままの手を引き寄せて抱きしめたんだ。

「…おやすみなさい」

「…お、おやすみなさぃ…」


ヤバかったかな…、動揺して部屋間違ったりしないよな。
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