奪うなら心を全部受け止めて
・千景、久々の来店
・千景35歳
「いらっしゃいませ…」
「よぉ、啓司!」
「え、千景さん?千景さんじゃないですか」
「ああ。久しぶり。懐かしいなぁ啓司。元気だったか?」
「はい、見ての通り。千景さんも元気でしたか?」
「俺も見ての通り。元気だ」
「はぁ…。しかし、何年振りですかねぇ。…あれからだから…、7年…、8年振りくらいですかね」
「ああ、そうだな。そんなもんだな」
「いつこっちに?」
「今月頭からだ」
「あ…じゃあ、また、昔みたいに顔見せに来てくださいよ」
「ああ、来る来る。当たり前だ。店、まだやってて良かった。なくなってたらどうしようかと思ったよ」
「何です、それ?酷いな〜。ちゃんとやってますから。あ、何にしましょうか。いつもの?」
「ああ。バーボン、ロックで」
「畏まりました」
「どうぞ」
「有難う。啓司も何か好きなのを」
「有難うございます。では一杯だけ、ご馳走になります」
軽めのモノをショットグラスに注ぎ、頂きますと軽くグラスを上げた。
「ああ。一杯と言わず遠慮せずやってくれ」
「あぁ…やっぱ千景さんだ。見れば見るほど…、はぁ、生意気な言い方ですが、何だか益々いい男になりましたね。こう…男の色気と言うか増しましたね…だだ洩れじゃないですか」
「はぁ?…何言ってやがる。啓司の方こそ、モテてモテて仕方ないだろ?」
「俺なんか全然です。経験なさ過ぎで…、駆け引きも下手だし…。遊びだって出来ないし。相変わらずつまんない男です」
「見かけ倒しって…、相変わらず言われてるのか?」
「ハハハ、…まぁそんなところです。…情けな〜ぃ」
「ハハ。情けなくなんかないさ。啓司の良さを見抜けない方が悪い。じっくり時間をかければ、人ってのは解ってくるんだ。こんな商売してる人間だからって、相手がせっかち過ぎるんだろ」
「せっかちというか…まあ、最初から、…求められる事、多いですから…」
「結局それか、…そんな男だと思われるんだよな。つまんない女に引っ掛かるなよ?」
「ハハ。はい。まあ、…来るものも拒んでます」
「後腐れなく遊べると思ってるんだよな?バーのマスターの勝手なイメージ?顔良し、体良し、だし」
「ガハハッ。いやいや、止めてください。本当、遊び人じゃないんですから。
それに肝心な事。大事な、性格良しが抜けてますよ?千景さん…」
「まぁまぁ。そこはカット。
………ちぐはぐするんだよなぁ、…なんだか」