奪うなら心を全部受け止めて


「あれ?佳織、鞄は?誘いに来てくれたのに持って来てなかったのか?」

「あ…」

だから、自分から教室に行った訳じゃない。
陽乃が呼び出したに違いない。隠しては駄目だ。相手が陽乃だからか。幼なじみだとでもいわれたか。俺に気を遣ってるのか。

「おっちょこちょいだなぁ。じゃあ教室戻るか。ちょっと待って。俺も鞄…」

頭をくしゃくしゃされて手を引かれた。
うっわっ。いきなりドキドキする。さっきまでの緊張と違う緊張が走る。

高木先輩に手を引かれ教室に戻ると、少し残って居た女子がざわめいた。

廊下で待つ高木先輩の元に鞄を取って戻ると、また、不意に頭をくしゃくしゃされた。

「キャー」

いいなぁと小さく声が上がった。


「参ったな…。佳織、早く。逃げるぞっ」

先輩はまた手を繋いだ。照れてるみたい。顔が廊下の窓の方を向いてるから。何だかギャップ、可愛い…。
そうだ…、先輩もこうして誰かとちゃんとおつき合いするのは、経験がないんだよね、岸谷さんの話だと。
だから、ごく自然に手は繋ごうとするけど、本当は恥ずかしいんだ。
…私、高木先輩を思う人の気持ちに負けないかな…。大丈夫かな…。
好きって気持ち、ドンドン大きくなっていくのかな。


「佳織?何考えてる?」

ギュッと強く手を握られ覗き込まれた。

「陽乃に、本当は何か言われたんじゃないのか?あいつの言ってた事は本当か?…正直に言って?」

「あ…、大丈夫です。励ましてくれました…」

「励ます?陽乃が?本当に?」

「はい。高木先輩を好きな人は沢山居るから、負けちゃダメだよって」

「…佳織」

急に足が止まった。

「はい?」

いきなり抱きしめられた。…えっ。

「…心配なんだ、佳織。どんな事でも言うんだぞ?ちょっとの事だからとかって、我慢して一人で飲み込もうとするなよ?
どんなに見てても、言ってくれないと解らない事だってあるからな?」

あ、…もしかして。高木先輩は、岸谷さんの話を聞いていたのかな…。

「高木先輩…」

「佳織?約束だからな?」

「…はい」

「うん。…それと、高木先輩より、名前で呼んでくれた方が嬉しいかな…。まだ難しいか?」

顔を覗き込まれた。うっ、近い…恥ずかしいよ…。

「あ、…えっと、……優、朔さん?」

「いや、優朔でいい」

「えー」

「えーじゃなくて」

「……あ、では、……優朔?」

「ああ、よく出来ました。ちょっと疑問形だけどな。ハハ。次からは優朔だからな?」

そう言ってまた頭をわしゃわしゃ撫でられた。
…。もう…一度にこんなに一杯色々されると、もう顔が赤くなりそう。ドキドキする。

「よし、帰るぞ」

「はい…」

体に響く高木先輩の声…。くっついた胸にドキドキした。こんな…何度もドキドキしてたら心臓が持たない…。
私はまた高木先輩に手を引かれ、階段を下りて行った。
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