奪うなら心を全部受け止めて
駐車場の空きスペースに車が静かに停まった。
スーツ姿の男性が降りて来た。
高身長…。無駄の無い体、と言うより、鍛え上げられた肉体と言った方が良いのか、スーツの上からでもカッチリと引き締まっているように見える。
細身のダークスーツ、精悍な顔立ち。秘書と言ってもボディーガードも兼ねているような人…。
威圧感とはちょっと違う。隙のない強さみたいなモノを感じる。…守る人。
私…、こんな時、人間観察してるなんて…。
余裕なんて全然ないくせに…。緊張している証拠だ。
近付いて来た人は少し柔らかい顔をした。
「お待たせして終いましたか?
お部屋から出てお待ち頂き有難うございます。
失礼致しました。
谷口様で間違いございませんね?
私は電話でお話致しました秘書の松下です」
確かに。低くて、はっきりした声…。耳に残っている電話の声と同じ。
上着の内ポケットから取り出し、丁寧に名刺を見せて挨拶をしてくれた。
「怪しいですよね?顔も知らない男が突然現れて、秘書だと言っても。これは秘書を語る…誘拐かも知れないですよ?」
「え?そんな事…」
「名刺だって偽物かも知れませんよ?世間を知らないお嬢さんは簡単に騙せますよ?」
「ぇえ?…、でも…」
「はい。信じて頂くしかないのですが。
どうされます?私を信じて車に乗って頂けますか?少しお考えになって決められても結構ですよ?」
そう言って車まで帰って行った。
「あ」
松下と名乗る秘書であろう男は、思案している私の返事を待つ間、軽く腕を組み、頭を少し傾げて、助手席側のドアに寄り掛かるように立った。
ん?さあ、どうする?って感じで少し微笑む。
ドキッ。…何て事、こんな時に…。素敵な顔って…、心ときめかせてる場合じゃない。私の判断を待ってくれているのに。
車まで近づいた。
「間違いないと思います。…行きます、乗ります。お願いします」
「クスッ」
え…今、笑った?
「有難うございます。では、こちらに」
そう言って後部のドアに手を掛けた。
「どうぞ」
手を取られてエスコートされた。
片方の手はドアフレームにつき、頭をぶつけないように気を配ってくれているようだ。
「…有難うございます」
シートに座ったのを確認して、静かにドアを閉められた。
素早く運転席に乗り込むとエンジンをかけた。