奪うなら心を全部受け止めて
・佳織25歳、再び松下のマンション
「では、私はそろそろお暇いたしましょう」
「あ、松下さんは優朔に会わないのですか?」
私、一人でいるの?
「俺?俺は明日から嫌でも顔を合わせます。ご心配無く。俺が居て邪魔するより、少しでも二人だけの時間、長い方がいいでしょ?
あ、優朔は公には“明日"帰って来る事になってますから。
では、優朔によろしく、佳織ちゃん」
コチコチ…。
今、何時になったの?いつもは気にならない壁の時計が刻む音も嫌に耳につく。
…一人って、それはいいんだけど、何だか、どうしてもどんどんドキドキが増して来る。
はぁ。本当に優朔は帰って来るんだよね。はぁぁ、ドキドキする…。
ドキドキどころじゃない、バクバクして爆発しそう。
…落ち着かない。本当にここに来るかしら。実家に帰って終うんじゃないの?
…ああ、どれだけ時計を見ても、時間は過ぎているようでそんなに経ってないようで、本当に待ち遠しいんだけど…。まだ?
顔、変じゃないかな。体型、あの頃と変わってないかな…大丈夫かな、何か言われたらどうしよう。ピチピチじゃなくなったとか言われないだろうか、…そしたら、殴ってやる。待たせたからよって。
もう、…会いたいような会いたくないような…。
カチャ。
「…会いたくないのか?」
うっ。…え?優朔?空耳?
あ…いつの間に…。振り向くのが怖い。
「心の声がだだ洩れだぞ?…お姫様」
あ…。あっ。あっ…。優朔の声。…間違いない。
聞きたくて堪らなかった声。
「佳織、ただいま」
声…、近い。後ろから抱きしめられた。あ…。あ…。…優朔…。…動けない。
「あ、優朔…。優朔!」
振り向いて思い切り飛びついた。
「ぉおっと、危なっ。…大丈夫か?佳織。
どこも打ってないか?……ただいま、佳織…」
受け止めた優朔を押し倒して終った。
身体の上で抱き止められていた。
優朔…。はぁ…、変わらない…。
最後にうちのアパートで会った日から…。変わらない。
…ううん、もっともっと…素敵になってる。
帰って来た。……私の…王子様…。
「はぁ、佳織……。見惚れてくれてる?…会いたかった。顔、もっとよく見せてくれ…」
抱きしめていた手を頬に当て、上半身を起こしながら見つめられた。…潤んだ綺麗な瞳。
「佳織だ…。この眉も、目も鼻も、この頬も、…この唇も。…ずっと触れたかった。どれだけ恋しかったことか…」
涙が零れた。
濡れた頬に指先が触れた。拭われた。
最後に唇を親指でなぞった。あ…、あの日と同じ。……懐かしい。火傷になっていないか、触れられた時と…。そして初めてのキスをした…。
触れている優朔の手を両手で握った。
顔をよく見たいのに涙が止まらない…。思うように声も出せない。
あ…。傾げながら優朔の顔が近づいた。大人な優朔。ドキドキする。
ん、んん…。
壊れ物を扱うかのように触れ、顔を包み込む。優しく唇が触れた。所在を確かめるように…ゆっくりと食む。合わされ深まった。
温かい…熱い…。涙が溢れた…。
深く求め合う。…もっと。…もっと。重ね合わし、甘く優しく唇を食む。…柔らかい。
「ん……、会いたかった…会いたかった。優朔…会いたかった。…お帰りなさい」
言葉はもどかしい。きつく抱きしめ合った。
「はぁ、佳織…もっと声も聞きたい、顔も見たい、だけど、もう限界だ」