すきだから
その後、教科書を借りたという所から、徐々に香苗との距離を縮めていった。
女と仲良くするのは千歳にとって難しい事ではなかったが、香苗だけは例外だった。

香苗と話す前は何故か緊張する。
小刻みに震える指を隠すので精いっぱいだった。
それでも普段通りに、他の女と同じ様に香苗に接した。

最初は戸惑いながらも返事をしていた香苗も、段々と心を許すようになり次第に笑みが増えていく。
その笑みを見るのが楽しみで、嬉しくて仕方なかった。

そして少し仲良くなった頃、彼女に男がいる事を知る。
それを知った時の千歳は、まるで巨大な岩が頭に直撃したくらいのショックを受けた。

仲良くなれたと言う天国から、一気に地獄へと落とされたような感覚。
あまりのショックで何日か眠る事が出来なかった。

本来ならそこで諦めるのだろうが、中々諦める事が出来ずにいた。
しかも香苗はその時あまり彼氏と上手くいっているわけではないらしく、時たま自分にあの男との悩みを相談してくることもあって、男の話をするたびに憂いの表情を浮かべていた。

そんな表情をさせる男に怒りを覚えたのと同時に、近く自分にチャンスが巡ってくるだろう、という疚しい(いやしい)気持ちが芽生えた。

だから、諦めずにただ静かに彼女への気持ちを温め続けていたのだ。

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