片道のRe:
噂を耳にしたのは、1週間ほど前。
テニス部の先輩達が談笑している横でボール拾いをしていたら、たまたま耳にしてしまっただけのこと。

先輩とは未だに2日に1回はメールをしているけれど、一度も「彼女ができた」だなんて言っていない。
所詮は噂だ。私は絶対に信じない。


「……須野先輩、か」


2年生の中では1、2位を争う美人だと、以前男子が騒いでいた。

私も何度か見かけたことがあるけれど、確かに可愛い人だと思う。

色白でサラサラのロングヘア。
部活は吹奏楽部で、いかにも温和で、お淑やかな笑顔が印象的な人だった。


「……痛ッ」


ポケットに手を入れようとしたら、ささくれが繊維に引っかかった。

ほぼ毎日ラケットを握っている所為で、あかぎれだらけの可愛気がない手のひらに、ため息が落ちる。

私が『おとこ女』なら、須野先輩は『おんな女』だ。
ささくれ1つない、綺麗な手をしているのだろう。


急に寒さが身に染みてきて、慌てて校舎へと逃げ込んだ。

余りの底冷えに遂には涙まで浮かんできてしまったから、誰にも見つからないよう俯き、こっそりと拭い取った。

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