上司の笑顔を見る方法。
 

こうして、無事にゆずさき製薬のHP開発は一段落した。

けれど、別のプロジェクトも少しずつ進めていて。

それは、ある企業のHPにあるwebコンテンツをより使いやすくするために、改善を入れるというもの。

作業量は決して多くはないけど、その分開発期間も短くなっている。

そのため、私と藤谷さんはまだオフィスに残っていた。

つい30分前までは、少しずつ忙しくなっているらしい他のチームの人もいたけど、今はふたりきりだ。

私はゆずさき製薬の人たちの笑顔を思い浮かべてほくほくした気分のまま、詳細資料を書くためにキーボードをカタカタと打っていた。


「櫻井、ちょっといいか?」

「はい」


藤谷さんに呼ばれ、キーボードを打つ手を止めてそちらに向かう。


「次のプロジェクトのことだけど」

「はいっ」


次の仕事の話が出てきて、私はシャキッと背筋を伸ばす。

次はどんな仕事かな?

仕事は大変なことも多いけど、楽しみな気持ちが大きい。

それはきっと……、私情を挟むなと怒られるかもしれないけど、藤谷さんと一緒にひとつのものを作り上げていくのが楽しみだっていう理由もある。


「山田が大きめのプロジェクトを持つらしく、櫻井には今の作業に目処がついたらそっちに入ってもらうことになった」

「……え?」

「なんだ、そんな不安そうな顔するな。確かに大きいプロジェクトは大変なことも多いだろうけど、やりがいはその分あるし櫻井ならやれる。それに以前は山田の下にいただろう。大丈夫だ」


藤谷さんからの仕事の能力を認めてくれるような言葉はすごく嬉しかった。

少し前まで、私が求めていたものだったから。

……でも、そうじゃない。

私の頭の中は次の仕事への不安よりも、藤谷さんのことでいっぱいだった。

藤谷さんから離れないといけないなんて。

たった今、一緒に仕事をする嬉しさを噛み締めていたのに……。

でも、これは仕事で。受け入れるしかないんだ……。

大丈夫。同じオフィスで働くことには変わりない。

会えなくなるわけじゃないんだから……。


「……ありがとうございます。次のプロジェクトも精一杯頑張ります」

「あぁ。頑張れよ」


奮い立たせるように私は笑顔を作る。

私の決意の言葉に笑顔なく頷いた藤谷さんはふっと私から顔をそらし、パソコンに向かう。

私の目に映る藤谷さんの横顔は凜としていて、私が藤谷さんのチームから離れることなんて何とも思っていない様子。

でも私はそこから動けなくて……気付けば、藤谷さんの名前を呼んでいた。


「……藤谷さん」

「ん?」


本能のまま動いていた。

顔を向けてくれた藤谷さんの唇に、私はそっと触れる。

こうやってキスをするのはいつぶりだろうか。

藤谷さんはまだ、私からのキスを受け入れてくれる?

そんな疑問を頭に浮かべながら唇を離すと、藤谷さんはいつものようにふっと笑みを溢した。


「もう仕事は終わったのか?」


藤谷さんの笑顔に、胸がきゅうっと甘く締め付けられる。

……笑ってくれたってことは、受け入れてくれたの?

もしそうなら、こうやって触れることができなくなる前に伝えておきたい。


「……いえ。でも……、藤谷さんに言っておきたいことがあって」

「……何?」


私の言葉に藤谷さんは笑顔を封印する。

でもその表情は仕事で見せるものではなく、いつかと同じ、私を魅惑するようなもの。

私は藤谷さんの瞳を真っ直ぐ見て、ゆっくり口を開く。


「……私、藤谷さんのことが好きです」


藤谷さんはいつも、私がキスをすれば心の扉を開いて笑顔を見せてくれる。

……それなら。

私の想いを伝えたら、その心の扉の中に私のことを招き入れてくれますか?

もっと、もっと、たくさんの表情を見せてくれますか?


















……私の疑問の答えはきっと、今目の前でふわりと浮かんだ藤谷さんの笑顔の中にある。


Fin.
 
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