ロールキャベツは好きですか?
……っと。午後の外回りの前に、ひとつ用事がある。
双山部長との打ち合わせだ。
本来なら私の直属の上司、第三課課長が担当する取引先だった。
しかし、この課長、この忙しい時期に、足を骨折して入院することになり、私が代わりに受け持つことになったのだ。
「打ち合わせ行ってきます」
腰が重いな。
部長への恋愛感情がめっきり消え失せた今、会うのがわずらわしい。
4年前、片想いをしていた頃は、会うのが嬉しくて仕方なかった。
二人きりの会議室だと思うだけで、胸がときめいた。
そして、会議室でコソッと「祈梨」と名前を呼んでは、夜の逢瀬を誘ってくる。
想いは重ならないベッドの上。
確かに辛いものだったけれど、それでも求められることで確かに満たされていた。
なんて、私は都合のいい女だったんだろう。
あの頃の自分がもったいない。
後悔が止まらない。
あの頃、彼を好きにならなければ……。
身体だけの関係もキッパリ断っていれば……。
「渡邊主任?会議か何かですか?」
ちょうど外回りから帰ってきた祥吾くんとオフィスの廊下で鉢合わせになった。
「ちょっと打ち合わせよ」
彼の笑顔にちょっと安堵してから、拒絶する脚を無理矢理動かす。
「カピバラくんは、やっぱり癒やし効果抜群だね!」
「俺はカピバラじゃありませんから」
文句はバッチリ忘れない彼に、手を振って、私は会議室に向かった。