ロールキャベツは好きですか?
……そのとき、重い沈黙に不釣り合いな音が、空気を震わせた。
プルルルル……プルルルル
というこの音は、私のスマートフォンの着信音だ。
それをきっかけに、息をするのも躊躇うほどの空気は、少し緩和される。
手首の束縛も解いてもらって、私は深呼吸をしてから、応答する。
電話は、智おじさんからだった。
普段、おじいちゃんと連絡をとることはあっても、おじさんと話すことはなかなかない。
珍しくて、思わず震える声で電話に出た。
「……もしもし?おじさん?」
『祈梨か!?今家か?』
「え?うん。そうだけど……」
焦った声に鼓動が速くなり、緑色の靴下をぎゅっと握った。
おじさんの早口に言った言葉に私の頭は混乱する。
「今……なんて」
『だから!じいちゃんが倒れた!すぐ病院に来てほしい』
「おじいちゃんが倒れた……?」
『心筋梗塞の疑いがあるんだ。洋平もすぐに来てくれるらしいけど。病院は……』
早口に言った病院の場所を私はよく知らない。
「え……?ちょっ……待って。おじさん!」
電話の向こうでサイレンが聞こえたかと思うと、電話がプツリと切れた。
「祈梨さん。落ち着いて。大家さんが倒れたんですよね?」
電話の声を聞いていたらしい、祥吾くんが私の腕を揺さぶる。
「俺、その病院知ってます。俺の祖父も一度そこに入院したことがあって。車、取ってきますから、支度して外で待っていてください」
祥吾くんがうちのマンションのすぐ近くに駐車場を借りて車を止めていることを知っている。
だけど……
「そんなの、祥吾くんに悪いよ……!」
今の今まで、言い争ってたのに。
こんなことに甘えてしまっては……。
「今の祈梨さんをひとりで行かすほうが心配です。それに、俺も大家さんのこと、気になるし」
それだけ言い残すと、彼はもうダウンジャケットを着て立ち上がっていた。
もし……おじいちゃんが……。
そう思うと、怖くて怖くて、たまらない。
「わかったら、急いで支度して」
珍しく命令口調で言われて、私は深呼吸をしたあと、強く頷いた。
それを見届けてから、祥吾くんは玄関へと向かう。
「祥吾くん。ありがとう」
今晩だけは……甘えさせて。
死の恐怖に怯える、今、だけは……。