ロールキャベツは好きですか?

さっきから感じていた。
私を見つめる視線。

この飲み会で唯一淡々と酒を飲んでいるあの男。

もともとの和んだ目元のせいで、不機嫌には見えないけど。

それでも私が忍と話をするたびに、視線を感じる。

田島くん。
私に想いを告げてから、見つめる視線を隠そうともしない。

やめてほしい。
そのカピバラくんの目に熱いものを感じたら、不整脈を起こすことに気がついてしまったから。

だけど、部下を、信頼のおいている部下を、無碍に出来ない。

「渡邊主任。グラス空だけど?」

忍の声にハッとする。
忍からビールを注がれるのを見つめながら、注がれる視線はシャットアウトする。

「ありがとう」

「さっきからぼんやりしてるけど、体調悪いのか?」

私は首を横に振る。

違う。
ぼんやりしていたのは、田島くんの視線を感じたから。

田島くんのことを、考えていたから。

「あ。もしかして主任。気になる人のこと考えてました?」

いじわるそうにからかうようにそんなことを言ったのは、佐藤さん。

婚約者の発言に、ピクッと反応する忍。

そう。普通に接しているけれど、私と忍は元恋人だ。

浮気が原因が別れたことを、まだ少し気にしていらっしゃる様子の忍。

気にするぐらいなら、浮気なんてしなければいいのに。

「そういえば主任の浮いた話全く聞きませんよね」

アルコールが入った女子はテンション高めで会話に混ざってくる。

「ほんと!!主任、恋人とかいらっしゃらないんですか??」

こういうのって、知らぬが仏って言うんだっけ?

私と忍が恋人だったと知っていたら、普通ここまで無神経な質問できないよね。

というか、そもそも、ここまで飲み会は和まなかっただろうし、職場もギスギスしたはずだ。

今になって思えば、からかわれるのが嫌だから、と社内恋愛を内密にしていた私と忍の判断は正しかった。

佐藤さんの立場もものすごく悪くなるしね。

「主任。今フリーですか?」

「フリーよ」

「……気になる人とかは??」

ぴくりと動いた唇。
興味津々な部下の向こう側に、興味なさそうにビールを呑み込む田島くんがいた。

「いない」

そう田島くんは気になる人ではない。
恋に落ちた人でもない。

ただ、告白されただけ。
普段職場では見かけない表情を偶然見かけただけ。

「今は恋より仕事かな。結婚願望も特にないし」

恋バナには、興ざめする話でも、無駄にテンションの高い飲み会で、笑い飛ばして言えば、みんなからの反応は、悪くない。

「主任らしいですね!」

「カッコいいです。主任」

「このまま、女性初の営業部長目指しちゃってください!」
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