セカンドパートナー
ちらりと様子を見ると、冬だというのに、並河君の額と首筋には汗が流れていた。体育を頑張ってたから?
「詩織、女の子なんだから。化膿したらつらいよ」
消毒してくれる、その手つきがいちいち柔らかい。赤く腫れた肌に消毒液の染みたガーゼを優しく当てられるたび、心の奥に何かを落とされたような、変な気持ちになる。きっと、言われ慣れない優しい言葉に舞い上がっているんだ。
唇とか伏せた目が、私とは違う。男の人って感じがする。ドキドキして、胸が熱くて、顔までほてってしまう。
田中さんのマフィンを渡したら、喜んで食べるのかな。男子で、女子からの差し入れを喜ばない人はいない。カルボナーラ差し入れしたら、並河君、ビックリするかな。
色々考えてしまう。
並河君は真剣だった。ジッと見過ぎていたせいか、間近で目が合う。恥ずかしくてそらしてしまった。
「詩織……」
切ないような、照れたような、求めるような、期待するような、並河君は見たことのない顔で私を見つめてきた。
視界が揺れるみたい。胸が激しく鼓動する。この空気、耐えられない…!
「も、もういいよ、平気! 治った!」
「まだ途中…!」
とっさに立ち上がる私に合わせ並河君も立ち上がった。その拍子に並河君の腕が近くのデスクに強くぶつかり、デスクの上にあったペン立てが地面に落下した。
アルミ製のペン立てと、プラスチック製の水性ペン数本と、透明の定規。それらが床に落下する時の衝撃音に、私は無意識のうちに身構えてしまった。
並河君にとっては、きっと何でもない音。私にとっては、恐怖で心を支配する音だった。
保健室に並河君と二人きり。ここには怖いものなんてひとつもない。並河君は優しく手当してくれた。それなのに、ペン立てが落ちた、それだけのことで反射的に父の暴力を思い出し、体が震えた。
おさまれ、頼むから。並河君が変に思う!