セカンドパートナー

 なくなりそうになっているアイスコーヒーを一口飲み、羽留はジッとこっちを見つめた。

「高1の時、音楽校舎に初めて並河君を呼んで詩織と一緒に曲聴いてもらったこと、覚えてる?」
「覚えてるよ。私達が初めてケンカした日でもあるから」
「ホント、あれはビックリだったよ。詩織がキレてショックだったし!」

 今ではお互い、笑い話にできる。

「ショパンは今でも時々聴いてるよ。羽留のおかげで好きになった。『セッベンクルデーレ』も。すごく印象的な曲で、初めて聴いた時のことは昨日のことみたいに覚えてる」

 今まで色んなことがあったけど、あの日並河君のいる空間で聴いた『セッベンクルデーレ』のメロディーは、その後の強い刺激や楽しい出来事にもかき消されることなく記憶にある。心に刻まれたと言ってもいい。

 羽留は大人びた目で微笑し、感慨深くささやいた。

「授業で初めてあの曲のメロディーを聴いた時、歌詞の意味を知って、並河君と詩織のことみたいって思ったんだ。周りには音楽科の子しかいないのに、真っ先に頭に浮かんだのは二人の顔だった」
「そうだったの?」

 そんなこと初めて聞いた。胸が、思い出したように小さく震える。

「だから、二人の仲を応援したくてあれを弾いたんだよ。かなり遠回しな方法だったけどね」

 どんなに悩まされても、いつも変わらずあなたを愛していたい。セッベンクルデーレの歌詞はそういう意味だった。

 きっと、このことを伝えるため、羽留もたくさん迷ったんだ。そういったささやかな方法で応援してくれたのも、私の気持ちを尊重してくれていたから。

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