セカンドパートナー
秋月先生は生徒一人一人に丁寧な挨拶をし優美な仕草で教室の中に招き入れると、私の元へ駆けてきた。
「お待たせして本当にごめんなさい。体験に来て下さった中川詩織さんですよね」
中川詩織(なかがわ・しおり)。
婚姻により変化した名字を、まだそばにいた並河君には聞かれたくなかった。彼は私が既婚者だと知っているのだから今さら隠すこともないのだけど、それでもなんだか嫌だった……。
「はい、中川です。今日はよろしくお願いします」
「申込用紙を見て気付いたんですが、同じ歳の生徒さんが来て下さってとても嬉しいです。講師陣の中でも、私は若輩者扱いされているので」
非の打ち所がない彼女の容姿からは冷ややかな内面を想像させられた。でも、実際の秋月先生はとても気さくで親しみやすい話し方をする女性だった。
これまでに出会ったことのないタイプだし、完璧過ぎて気後れしかけていたけど、イメージとのギャップで、私は一気に彼女に好感を持った。
「そうなんですか。先生はとても立派だと思います。こうしてお一人で教室を開いてみえますし」
「そんな風に言って下さりありがとうございます。中川さんのような生徒さんが来て下さってとても嬉しいです」
「私も、この教室にしてよかったです」
さっき生徒のおばあさんと話した時は気が乗らなかったけど、秋月先生とならうまくやっていけそうな気がする。
書道を教えてもらうだけで、深い付き合いをするわけではないし。
このくらいフラットに接してくれる先生だとすごくやりやすいかも。高校にいた書道教師みたいにしつこそうな人じゃないし、その点も安心できた。