知らない貴方と、蜜月旅行
『ちげーよ。ケーキじゃなくて、シチューだ』
「あっ、シチュー?あるよ、もちろん。久未がね、私の愛情入ってるから美味しいって言ってくれたよ」


チラッと久未を見ると、久未は〝ふふっ〟と、あまり声に出さないようにして笑った。


『チッ……帰りてぇ…』
「え?大丈夫だよ、全部食べないから」
『そうじゃない。今すぐ食いてぇんだよ』
「えっ、ヤダ…吏仁っ」


まさか吏仁が食べたいのがシチューで、しかも今すぐに食べたいなんて、言ってくれるとは思わなかったよ…。


『あー、まぁ、楽しんでんならいい。じゃあな』
「あっ、待って吏仁!」
『あ?』
「あのね、久未が一度吏仁に会ってみたいって」
『ふぅん。親友を騙されたかもしれない男の顔が見たいって?』
「そっ、そんなこと言ってない!」


心配はしてると思うけど…。騙されてんじゃない?とは、言われてないもん。ただ、付き合ってもなけりゃ、顔見知りでもなかったからね…。


『冗談だ、いいぞ。ただ俺帰り遅いし、店来るか?』
「え、いいの…?」
『ああ、ついでに晩飯食ってけば?俺は紫月のシチュー食う』
「でも…。言いづらいんだけど…。高いんだよな…」


ブリーズには行きたいけどさ…。あそこで食べるとなると、久未にも言いづらいというか…。でも久未に10時まで待ってもらうのも悪いし…。なにより、吏仁が疲れて帰ってくるのに、その時間に会わせるのもね…。


『なに言ってんだよ。金やったろ?お前、シチューに3万使ったのかよ』
「は?使ってないし!まだ、たくさん残ってる!」
『じゃあ、いいだろ?時間は、7時から8時の間が混むから、来るなら6時か8時過ぎに来い』
「う、うん。分かったよ」
『じゃあな』


……切れちゃったけど。行くことになっちゃったけど…。久未に言いづらい…。ま、まあ、最悪!晩御飯じゃなくてもいいか!うん、そうだ、そうしよう!


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