アルチュール・ド・リッシモン

ブルターニュ海戦と母の苦悩

「子供達のことが心配か?」
「私に捨てられたと思ってるんじゃないかと思っただけよ」
「長男のジャンだったか? それがブルターニュ公を継いだそうじゃなか。その騎士叙任の為にもこっちには渡せないと、クリッソンという奴からも書状が届いていたぞ」
「らしいわね………」
「何だ? まだ心配か?」
 そう言うと、ヘンリー4世はジャンヌの体を反転させ、自分の方を向かせた。
「これからは、敵となるかもしれない。あなたとどこかの戦場であの子達が会ってしまうかもしれない、と思って………」
「私が勝てばよいのであろう?」
 そう言うと、ヘンリー4世はまっすぐジャンヌの目を見つめた。
 ああ、そうだったわ! この人の少し強引だけど、真っ直ぐ前しか見ていない所に惹かれて、私は海を越え、此処に来たんだったわ………。
 ───そう思いながらジャンヌがヘンリー4世を熱く見つめ返すと、彼はいきなり妻を抱きしめた。
「心配するな! 私は勝つ! 必ず、勝つ! あのリチャードだって、すぐ私に降伏したんだ。フランスも簡単に屈服させるさ! だから、そんなに心配するな! 子供達だって皆、君の前に連れてきてやろう!」
「ありがとう………。そうね………。信じているわ。でも、無茶だけはしないでね」
「無論だ!」
 ヘンリー4世はそう言うと微笑み、妻にキスをした。
 ヘンリー4世、35歳。心身ともにみなぎっている青年期で、まさかそれから10年後に病で亡くなってしまうとは、この時には本人も妻も、思ってもいなかった───。
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