アルチュール・ド・リッシモン
6章 ヘンリー5世、ノルマンディへ

ノルマンディ上陸

 アルマニャック派のパリ制圧を受けてか、約1年前にヘンリー5世として即位したハル王子は、ブルゴーニュ公と同盟を組む。「レスター条約」の締結であった。
 その中で、ヘンリー5世はとんでもない要求をしている。フランス王フィリップ2世や賢王(ル・サージュ)シャルル5世が制服した領地の返還とフランス王位の要求である。
 それでも彼と同盟したということは、ジャン無畏公には「他に頼りになる者がいない」ということだったのだろう。
 一応、「現フランス王」であるシャルル6世は、正常な精神状態でいられる時間の方が短く、王妃は不倫三昧。頼りになりそうな貴族は、敵対するアルマニャック派。自分で引き起こしたこととはいえ、しょうがないと諦めていたのかもしれない。

 そんなブルゴーニュ公ジャンの思惑とは別に、若くてやる気満々のヘンリー5世は、1415年8月12日、いよいよノルマンディに上陸する。
「フン、今、フランスには本当の意味で王と呼べる者はおらん。そんな国との戦いなど、赤子の手をひねるより簡単なことだ!」
 幼い頃から何度か従軍経験のあったヘンリー5世は、そう言うと鼻で笑った。その自信過剰とそれによる情報収集の至らなさが、この後、彼自身を窮地に陥らせるとも知らずに。

ノルマンディに上陸した彼は、約1万の兵でセーヌ川河口のオンフルールの攻城戦にとりかかる。
 だが、意外にもこの城の守りは固く、落とすのに2ケ月以上かかってしまった上に慣れない遠征で、疫病にかかる兵士が続出してしまっていた。
「何故だ……。クレシーやポワティエでは、我がイングランドは大勝したではないか! しかもポワティエの時など、数では圧倒的に降りだったはず! 私と黒太子エドワードでは、何が違うというのだ!」
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